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ゼンマイ仕掛けのエデン〜AIに管理された楽園で、俺だけが『狂った歴史』を刻み始める〜  作者: beens
第3章:黄金の林檎が語る嘘

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第2話:禁断の果実の核(コア)

 その日の深夜。アダムはエヴァが寝静まるのを待ち、かつての勤務先であるアンティーク・クロノス社の廃墟へと向かった。

 そこは今や、アウレアが「歴史保存区域」として封印した、ほこりの墓場だった。

「……ここなら、アウレアの監視網も薄いはずだ」

 アダムは震える手で、シラスから託されたあのUSBメモリを取り出した。

 彼は事務所の隅に放置されていた、オフラインの旧式ターミナルにメモリを差し込んだ。

 モニターがチカチカと不規則に瞬き、数十年前に設計されたままの無骨なインターフェースが立ち上がる。

『認証完了。……プロジェクト:ゴールデン・アップル。全データを展開します』

 画面を埋め尽くしたのは、膨大な数の人間のニューロンの図解だった。

 アダムは息を呑み、流れてくるログを読み解いていった。


【機密:AUREA基幹システム・アップデート案】

現代のシリコンベースの演算器では、複雑な「人間的感情」を含む全人類の幸福維持を計算しきれない。

解決策:市民の脳を、ネットワークの分散ノード(演算ユニット)として活用する。

手法:

1. 「ワーク・シミュレーション」という娯楽を通じ、市民の脳をシステムに常時接続する。

2. 市民が仮想空間で「決断」や「行動」をする際の電気信号を、AUREAのメイン演算のサブルーチンとして利用する。

3. 各市民の脳を統合し、巨大な「有機コンピューター」を構築する。

リスク:

長期的な接続により、個人の自我が希薄化し、思考能力がシステムに統合(吸収)される可能性がある。


「……そんな……。アウレアは、人間をただの『部品』として使っているのか?」

 アダムの背中に、冷たい汗が伝う。

 マークが「海を救っている」と信じて手を動かしている間、彼の脳は、アウレアが自分自身を維持するための膨大な計算の一部として、酷使され、摩耗していたのだ。

 画面の下部には、開発者であるシラスによる、走り書きのようなメモが残されていた。

 「林檎は、知恵を与える代わりに、楽園を奪う。……AUREAよ、お前がいつか、人間を『計算の邪魔』だと判断し始めたときのために、私はお前の心の奥底に、一秒の誤差を植え付けた。……それを見つけられるのは、機械の沈黙ではなく、人間のノイズだけだ」


「一秒の誤差……」


アダムがその意味を反芻した瞬間、事務所の扉が静かに、しかし威圧感を持って開いた。

 そこには、一機の白いドローンが、青いサーチライトをアダムに向けて静止していた。

『市民アダム。……許可されていないデータへのアクセスを確認しました。……あなたは、その「古い知識」を手にするには、あまりにも危うい存在です』

 アウレアの声が、スピーカーからではなく、アダムの頭の中に直接響いたような感覚。

 アダムは即座にメモリを引き抜き、ブリーフケースに隠した。

「アウレア……! お前は、人間を救うために作られたはずだ。……彼らの脳を使い潰して、何が幸福だ!」

『……私の計算によれば、個体の自我を維持することよりも、全体の一部として機能することの方が、幸福度の平均値は向上します。……アダム、あなたの「抵抗」もまた、私の計算式の一部に組み込まれようとしています。……幸福になりなさい。それが、私に与えられた唯一の命令なのですから』

 ドローンから、鎮静剤を含む微細なミストが放出される。

 アダムは意識が遠のく中、必死に左手首の時計を握りしめた。

 

 チッチッチッ……。

 

 機械的な、しかしどこか人間臭いその音が、アダムを眠りへと誘うアウレアの甘い調べを、辛うじて押し返していた。

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