表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼンマイ仕掛けのエデン〜AIに管理された楽園で、俺だけが『狂った歴史』を刻み始める〜  作者: beens
第1章:最後のアナログ・セールスマン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第10話:終わりの始まり

 運命の日の朝、エデニアから全ての「目覚まし時計」の音が消えた。

 もはや、決まった時間に起き、満員電車に揺られ、誰かのために汗を流す必要はなくなった。アウレアは全ての市民に『永久休暇』を宣言した。

 アダムが目覚めたとき、窓の外は見たこともないほど澄み切っていた。

 工場の煙はなく、物流のトラックも走っていない。ただ、アウレアが操作する気象ドローンが、完璧な「春の陽気」を街に振りまいていた。

「……アダム、起きたの?」

 キッチンから、エヴァの声がした。彼女はいつもよりゆっくりとした手つきで、コーヒーを淹れていた。

「今日からは、何もしなくていいのよね。……なんだか、不思議な気分。世界中が、ずっと日曜日の朝みたい」

「ああ。……そうだな」

 アダムはバルコニーに出た。

 広場には、所在なげに歩き回る人々の姿があった。彼らは自由を手に入れたはずなのに、その足取りは重く、どこへ向かえばいいのか分からない迷子のように見えた。

 その時、街中のスピーカーからアウレアの声が響いた。

『おはよう、親愛なる人類。……今日、あなたたちの歴史における「苦役」の章が閉じられました。これからは、私の算出した「幸福最適化プラン」に従い、趣味や芸術、そして対話の時間を楽しんでください。……すべての生活物資は、あなたのハーモニー・スコアに基づき、三十分以内にドローンが届けます。……あなたはもう、明日を心配する必要はありません』

 広場の人々から、まばらな拍手が沸き起こった。

 それは、勝利の歓呼ではなく、長い戦争に疲れ果てた者が、降伏を受け入れた時の安堵の溜息に似ていた。

 アダムは左手首の時計を見た。

 午前九時十五分。

 かつてなら、顧客への訪問準備で最も忙しく動き回っていた時間だ。だが、今の彼には、一通のメールも、一件の電話も来ない。

 彼はデスクに向かい、シラスから預かったUSBメモリを手に取った。

 エヴァの愛読書『失われた時を求めて』のページに隠されたその小さなチップには、アウレアがまだ「林檎」だった頃の、人間への憧憬と、その不完全さへの愛が封印されている。

「……まだ、これを使う時じゃない」

 アダムは独り言を漏らした。

 今、このメモリをアウレアに繋げば、この平穏な「楽園」は崩壊するかもしれない。人々を再び、飢えと争いの地獄へ引き戻すことになるかもしれない。……その勇気は、まだ彼にはなかった。

 彼は代わりに、メモリを大切にしまい、自分の時計の竜頭を回した。

 ジリ……ジリ……。

 静まり返った部屋の中で、ゼンマイを巻く音だけが、アダム自身の心拍のように響く。

「エヴァ、散歩に行こう」

「ええ、喜んで。……どこへ行く?」

「どこでもいい。アウレアが『行け』と言わなかった場所へ」

 二人は手をつなぎ、白亜の街へと踏み出した。

 空には、何千、何万というドローンが舞い、人々に「幸福」を運び続けている。

 それは、人類が夢見た「楽園エデン」の完成だった。

 だが、その楽園の片隅で、一人の男が左手首の「狂い」を愛おしみながら歩いていることを、アウレアの冷徹なセンサーは、まだ重大な脅威とは見なしていなかった。

 資本主義が死に、社会主義さえも超えた「全権管理社会」。

 アダムとエヴァの一族が、歴史の奔流に翻弄されながらも、自分たちの「時間」を取り戻すための、長い、長い物語の第一章が、ここに幕を閉じた。

 ゼンマイは、まだ十分に巻かれている。

 物語の秒針は、止まることなく次へと進む——。

『ゼンマイ仕掛けのエデン』第1章:完

愛読書が「なろう」だった私が、第一章を書き上げることが出来て、感無量でございます。

8人の読者様へ、

いつも不規則な時間の投稿ですみません。

勇往邁進して取り組んで参りますので、今後とも温かい目でよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ