散りはじめた火花
神室町の夜は、いつもより重苦しかった。
1週間前、桐生と別れた大吾は、酒を断つこともなく、
公園の滑り台で子供たちに囲まれながら独り、無邪気に座っていた。
子供たちは最初驚き、すぐに大吾の存在を消そうと大騒ぎしている。
――だが、街では別の嵐が起きていた。
夜、神室町の東城会系列の組が入ったビルの前に駐車していた車が、
5箇所連続して、次々と爆発した。
炎と煙が立ち上り、街灯の光を赤く染める。
逃げ惑う人々。警察も、まだ現場に到着できず、
ただ街は破壊の匂いで満ちていた。
桐生は、新聞を見つめながら、
眉をひそめる。
「……始まったか」
頭の中では、あの“プラスチック爆弾”のことが甦る。
誰かが動いた。しかも計画的だ。
対象は東城会関連――つまり、街を揺るがす事件の始まりに違いない。
一方、大吾は、公園の滑り台の上で、
子供たちに向かって笑っていた。
子供たちは無表情。
炎や爆発、街の騒ぎとは無縁のように。
だがその目は、わずかに緊張を帯びていた。
本能が、街で起きている異変を感じ取っていたからだ。
滑り台の上の笑顔と、街の爆炎。
神室町の夜は、静かに、しかし確実に、
大きな嵐の前触れを告げていた。




