「独りごちた」に思うこと
少し前に書いた小説で、主人公の台詞の後に、
と、独り言ちた。
と、書こうとしました。だが、待てよ。
独りごちた
ひとりごちた
一人ごちた
どれがいい?と、迷いました。
この時点では、漢字をどう入れるかが迷う点であって、よもやこの言い回しがそれほど一般的なものではないとは思ってもみませんでした。多少文語的ではあるけれど、普通に小説(紙の書籍)で目にしてきたし、字面から意味も分かるだろうと思っていました。
世間ではどれが主流かなと「ひとりごちた」を検索すると、アニメ『ちいかわ』のエンディングテーマ曲である『ひとりごつ』が炎上していた、という記事が真っ先にヒットしました。
なんぞ?そう思って読んでみると、「ひとりごつ」だの「ひとりごちる」などという言葉は辞書にないという誤解から生まれた炎上のようです。そして古語としてちゃんと存在しているということが分かって鎮静化したようです。
え?古語だったの?私は今も生きている言葉だと思っていたのでショックを受けました。
手近にあるごく普通サイズの新選国語辞典(2003発行、小学館)には、こうあります。
「ひとりごつ」【独ごつ】自四〔古語〕「ひとりごと」の動詞化 ひとりごとを言う。つぶやく。
「独りごつ」でなく「独ごつ」なのが違和感あります。
重くて普段使わない国語大辞典(1990、学研)には、こうあります。
「ひとりごちる」【独りごちる】自上一 〈「ひとりごと」を活用させた文語四段動詞「ひとりごつ」から転じた語〉ひとりごとをいう。 ※堀辰雄の「菜穂子」から例文があげられています。
もちろん「ひとりごつ」は古語辞典にも載っていました。古語だったんですねえ。ひとつ利口になりました。「ひとりごちる」の方は、古語から派生した古語ほど古くない文語、と認識しました。
(10月25日追記:「ひとりごちる」の方は古語ではなく、昭和期に使われ出した言葉のようです)
というわけで、私の中の単語たちが、今時の若い人たちに通用しなさそうだぞという危機感を持ったことと、小説のイメージからもあまりに古めかしい言葉はそぐわないなと思い直し、その小説では無難に、
と、小さく呟いた。
としました。読んでくださる方に正確に伝わることが大事ですものね。
話は逸れますが、数行上で「そぐわない」という言葉を使いました。
変換しても漢字にならないので、ほんとうにないのかなと、ちょうど辞書を傍らに置いてあるので調べたところ、漢字はありませんでした。そのかわり発見したのが、「そぐわない」の一つ前の「そぐわしい」という単語です。
ご存知でしたか「そぐわしい」。つり合っている、調和している、という意味だそうです。一度も見かけたことがありません。例文は「美人にそぐわしい美しい言葉づかい」です。え、美人じゃないと美しい言葉づかいはそぐわしくないの?と、やさぐれた気分になりました。悪気なく書いているんでしょうねえ。
ちなみに、「そぐう」という動詞は知っています。
紙の辞書はこうやって珍しいものを見つけることあるから好きなのですが、最近この重さを面倒に感じて使っていなかったことをもったいなく思いました。
読んでいただきありがとうございました。
「ひとりごちる」の方も古語であるというような書き方になってしまっていたと気づき、追記しました。こちらは古語ではないです。昭和に生まれた言葉のようです。




