核の記憶
鉄の扉の内側で一夜を明かした。
冷気と疲労の中、リナナはシャムスに寄り添い、浅い眠りに落ちた。
シャムスは眠らずに扉の前に座り、時おり遠くで響く不気味な音に耳を澄ませていた。
朝──なのかはわからないが、長い静寂のあと、気配が遠のいた。
「行けそうだ。行くぞ」
シャムスがそう言って立ち上がると、リナナも目をこすりながらうなずいた。二人は慎重に鉄扉を開け、再び地下通路を進み始めた。石造りの通路は湿って滑りやすく、崩れた箇所も多い。
しばらく進むと、通路の先に開けた空間があった。小さな広間のようになっており、かつて礼拝や儀式が行われていた形跡がある。石の床の中央には朽ちた祭壇があり、その奥の壁には奇妙な壁画が描かれていた。
リナナが懐中電灯を向けた。
「これ……何かの記録?」
シャムスは壁に近づき、埃を払いながら絵を見つめた。
そこには、影のような黒い存在と、それに囲まれる村人たちが描かれていた。
興味深いのは、影の中心──頭部の中央に“白い丸”が描かれていることだった。
「……ここだ」
シャムスが呟いた。白い丸は、まるで“目”のようだった。まさに昨夜、自分が銃を撃ち込んだ場所。
「リナナ。これ、見ろよ。あの時の影、真ん中に妙な目があった。あそこに弾をぶち込んだら、初めて反応したんだ」
リナナが息を呑んだ。
「じゃあ……その“目”が、影の弱点……?」
「たぶん、そうだ。核を撃てば、奴らにもダメージが通る」
壁画には続きがあった。何人かの村人が儀式を行い、影の核を剣や矢で貫いている様子。そして最後には、影が地に伏し、中心から“光”を放つ姿。
「倒せる……手段が、ある」
シャムスの目に鋭い光が宿った。これまでの無力感を打ち破るように、確かな手応えを感じていた。
そのとき、リナナが壁の下部に何かを見つけた。文字だった。古い言葉が石に刻まれている。
「……これ、読める。少しだけ」
リナナが慎重に口に出した。
「“影に触れる者は、核を見よ。核はかつて、人であった”……?」
「人……?」
シャムスが眉をひそめた。
「じゃあ、影の正体は──」
「元々、人間だったのかもしれない……。何かで、変わっちゃった」
重苦しい沈黙が広がった。シャムスはゆっくりと壁画から視線を外した。
「だとしたら、俺たちが戦ってるのは……ただの怪物じゃないってことか」
リナナは静かにうなずいた。
「でも、それでも……やらなきゃ、止まらない。もう、みんなが消えないために」
「……ああ。やるさ」
シャムスは肩の痛みに顔をしかめながらも、再び銃を握り直した。
「この手で、終わらせる」
広間に一筋の風が吹き込んだ。静寂と冷気の奥に、新たな戦いの気配が近づいていた。