エピローグ:新しい家族?
エルムレイクの惨劇から数週間後。
村は静けさを取り戻し、影の気配も完全に消えていた。
シャムスは怪我の治療を終え、ようやく日常へ戻りつつあった。
その日、クレメンタインが久しぶりに彼の家を訪ねてきた。
木造の質素な玄関を開けた瞬間、彼女は思わず目を丸くする。
「……ちょっと、何これ?」
リビングの片隅で、リナナがクッションに座り込み、絵本を広げていたのだ。
彼女はにこりと笑い、手を振る。
「クレム、おかえり!」
「おかえりって……え、どういうこと?リナナ、ここで暮らしてるの?」
「うん!シャムスがここにいていいって!」
クレメンタインはぽかんとシャムスを見る。
彼は頭をかきながら、少しバツが悪そうに言った。
「まあ……放っとけなかったんだよ。行くあてもないしな」
リナナはその瞬間、ぱっと立ち上がり、真剣な目でシャムスを見上げた。
「ねえシャムス、私を養子にして!」
「……は?」
シャムスはあからさまに固まった。
「養子って、お前な……俺独り身だぞ?子供の世話なんてしたことねえし」
「でもでも、シャムスなら大丈夫!強いし、優しいし……」
「いやいやいや、勘弁してくれよ……」
頭を抱えるシャムスの横で、クレメンタインは思わず吹き出した。
ところが、リナナはさらに爆弾を落とす。
「それにね、私がシャムスの養子になったら……クレムはお母さんになるんでしょ!」
「はあ!?」
「ちょっと待って!」
二人の声が見事に重なった。
クレメンタインの顔は真っ赤になり、慌てて手を振る。
「ち、違うから!私とシャムスはそういうんじゃ……!」
「おいリナナ、勝手に決めつけんな!」
けれど否定する二人の声には、どこか照れくささが滲んでいた。
リナナはそのやり取りを見て、胸がドキドキするのを感じる。
不思議な感覚に、顔を赤くしながら心の中で小さく呟いた。
(なんだろう、この気持ち……)
笑い声が響く小さな家の中に、確かに新しい日常が芽生え始めていた。
──そして物語は、静かに幕を下ろす。
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