闇を超えて
巨影の核が砕けた瞬間、耳を劈くような咆哮が夜に響き渡った。
影の肉体は崩れ、まるで霧が晴れるように粒子となって空へと散っていく。
その黒煙は村を覆っていた闇の帳をも溶かし、空にはようやく月明かりが差し込んだ。
シャムスは膝をつき、鉄パイプを地面に突き刺してようやく体を支えた。
傷口からはまだ血が流れていたが、その瞳はしっかりと前を見据えていた。
「終わったのか……」
呟く声はかすれていたが、確かな実感を帯びていた。
クレメンタインはライフルを下ろし、深く息を吐いた。
「やった……本当にやったんだね」
彼女の声は震えていたが、頬には安堵の笑みが浮かんでいる。
リナナは懐中電灯を握りしめたまま、涙ぐんだ瞳でシャムスを見つめた。
「シャムス、すごかったよ……本当に」
その言葉にシャムスは苦笑を浮かべ、肩で息をしながらも答えた。
「すごかったのは……お前らだ。俺ひとりじゃ、あの化け物に届きもしなかった」
三人の間に言葉にならない絆が流れた。
命を賭けた戦いを共に越えたことで、彼らは確かに繋がったのだ。
周囲を見渡すと、村を覆っていた影はすべて消えていた。
ただ風に揺れる木々と、崩れた建物の残骸だけが静かに残っている。
エルムレイクは、ようやく解放されたのだ。
クレメンタインが夜空を見上げる。
「ねえ、シャムス。私たち、生きて帰れるんだね」
「帰るさ。血反吐吐いても、帰る」
リナナが二人の間に駆け寄り、小さな手で二人の手をぎゅっと握った。
「絶対に一緒に帰ろう。三人で」
月明かりに照らされる三人の影は、もう揺らめくことはなかった。
戦いは終わった。
そして彼らは、生き延びた。