闇の咆哮
背中合わせに立ち、三人は周囲を覆う影の群れを睨む。
「リナナ、右から来るやつを照らせ!」
「わかった!」
光に怯んだ影が身を引いた瞬間、シャムスは鉄パイプを振り抜いた。
骨のような硬質感が手に伝わり、露出した核が不気味に脈打つ。
すかさずクレメンタインが狙撃、核が砕けて黒煙が吹き上がった。
「シャムス、左!」
彼女の声に反応し、シャムスは血で滑る足元を踏みしめ、横から襲いかかる影の腕を鉄パイプで受け止める。
衝撃が腕に走り、古傷が軋む。それでも力を緩めず、体をひねって影の胴を殴り飛ばす。
リナナはその隙に別の影へ光を浴びせ、進路を塞いだ。
三人の動きは呼吸のように連動し、包囲がじわじわと崩れていく。
だが、闇の奥から低い唸り声が響いた。
空気が重く震え、黒い巨躯がゆっくりと姿を現す。
他の影を従えたその存在は、まるでこの村を飲み込む闇そのもののようだった。
「……あれが、親玉ってわけか」
シャムスは鉄パイプを握り直し、クレメンタインと視線を交わす。
リナナも恐怖に唇を噛みながら、懐中電灯を強く握った。
「行くぞ。ここで終わらせる」
次の瞬間、巨影が咆哮と共に飛びかかってきた。
巨影が踏み込むたびに地面が揺れ、古びた家々の壁が粉塵を散らして崩れ落ちる。
シャムスは鉄パイプを肩に担ぎ、歯を食いしばった。左脇腹は裂かれ、血がじわじわと足元へ滴っている。
「リナナ、目を離すな!核を見つけたら照らせ!」
「う、うん!」
クレメンタインは一歩前に出て、肩に掛けたライフルを構える。
巨影の胴の奥、脈打つように光る一点を視界に捕らえた瞬間──引き金を絞った。
轟音と共に弾丸が飛び、闇の皮膚を削ぎ落とす。しかし核までは届かない。
「効いてない!」
「なら、俺がこじ開ける!」
シャムスは足元の瓦礫を蹴り飛ばし、巨影の間合いに飛び込む。
黒い腕が振り下ろされ、地面を抉る。衝撃で膝が揺らいでも、彼は止まらない。
鉄パイプを振り上げ、巨影の胸へ叩きつけた。
鈍い音が響き、わずかに皮膚が裂け、核の光が覗く。
「今だ、クレム!」
クレメンタインが狙いを定め、二発目を放つ。核がひび割れ、巨影が凄まじい悲鳴を上げた。
だが次の瞬間、黒い触手のような腕が横薙ぎに走り、シャムスの胴を直撃。
体が宙を舞い、崩れた壁に叩きつけられる。肺から空気が絞り出され、視界が白く霞んだ。
「シャムス!」
リナナの叫びが遠くで響く。
クレメンタインが立ちはだかり、巨影の攻撃をかわしながら必死に援護射撃を続ける。
「リナナ、ライトを核に!」
「はい!」
光が核を照らし、巨影の動きがわずかに鈍る。
シャムスは血の味を感じながらも、壁を支えに立ち上がった。
「これで……最後だ!!!!」
鉄パイプを逆手に持ち、最後の力で突撃。
巨影の脇をすり抜け、核に一直線で迫る。
渾身の一撃を叩き込むと、ひび割れが広がり、クレメンタインの最後の弾がそこへ突き刺さった。
爆ぜるような音と共に、巨影の体が崩れ落ち、黒い霧が夜空へ溶けていく。
三人は肩で息をしながら、その場に立ち尽くした。
村を覆っていた闇は、少しずつ、確かに薄れていった。