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孤立

シャムスの視界が、じわりと赤く染まっていく。額から流れ落ちた血が片目を覆い、呼吸は熱い鉄を飲み込むように苦しかった。

足元に広がる影が、生き物のように蠢き、彼を囲い込んでいく。


「……やるしかねぇ」


右肩はさっきの一撃でほとんど動かない。左手に銃を握り直し、背中の壁を感じながら影の動きを読む。銃声が狭い空間に反響し、一体、また一体と黒いシルエットが崩れていく。だが撃ち倒しても、足元から新たな影が沸き立つように迫ってきた。

突然、背後から鋭い衝撃が走る。脇腹に焼けるような痛み。短く息が漏れ、膝が地面に落ちかける。

振り返ると、腕のように伸びた影の触手が引き裂いた壁の隙間から入り込み、再び襲いかかってきた。


「くっそ……!」


シャムスは壁を蹴って距離を取り、残弾を確認する。──あと三発。

呼吸を整える暇もなく、影は獲物を弄ぶようにじわじわと包囲を縮める。


「こんなとこで……死んでたまるかよ」


彼は痛む肩に力を込め、再び引き金を引いた。銃声と共に一体が消し飛ぶ。

しかし、その反動で脇腹の傷から血が噴き、視界が揺らいだ。膝をつきかけた瞬間、影の触手が頭上から振り下ろされる。

咄嗟に転がってかわすも、背中に冷たいコンクリートの感触。逃げ場はない。だが、その目はまだ光を失っていなかった。


「……お前ら全部、まとめて地獄に送ってやる」


シャムスは銃口を影の中心に向け、全身の力を込めた。残弾の一発が、暗闇を裂く閃光となる。

影がうねり、耳障りな悲鳴を上げるが──それでも消えきらず、なお蠢いていた。

次の瞬間、天井が崩れかけるような振動が響き、さらに巨大な影が姿を現す。

巨大な影は天井を突き破るように現れ、周囲の空気を一気に冷やした。

その輪郭は曖昧で、しかし目だけは燃えるような赤で光っている。


「……お前が親玉か」


息を吐くたび、喉の奥に血の味が広がる。脇腹の痛みはすでに鋭さを失い、代わりに鈍く重い感覚が全身を支配していた。

影の巨体が腕を振ると、周囲の瓦礫が宙を舞い、壁が裂ける。シャムスは跳び退き、すぐさま銃を構えたが、弾倉はもう空だ。

──逃げられない。だが逃げる気もない。


「クレムたちが戻るまで……ここは俺が通さねぇ」


影の足元を狙い、倒れていた鉄パイプを拾い上げる。握った瞬間、掌に溜まった血が鉄を濡らし、滑りそうになる。それでも両手で構え、突進してきた影の腕を横に弾き飛ばした。

だが力の差は歴然だった。衝撃で吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられる。息が止まり、視界が白く霞む。それでも歯を食いしばって立ち上がる。


「……まだだ」


パイプを構え直し、今度は足元に滑り込むように影の懐へ。膝裏に一撃を叩き込み、動きを止めたわずかな隙に距離を取る。


「はぁ……はぁ……」


鼓動が耳に響き、全身が鉛のように重い。それでも、時間は稼げているはずだ──クレメンタインとリナナが来るまで。

だが影は怒りを増したかのように形を変え、全方位から触手を伸ばしてきた。

その一つが肩口を深く切り裂き、温かい血がどっと流れ出す。膝が崩れかけても、シャムスは笑みを浮かべた。


「悪いな……俺はしぶといんだよ」


鉄パイプを片手に、再び巨影へと突っ込んでいった。


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