影の防壁
影の壁は、生き物のように形を変え、三人を飲み込もうと迫ってくる。
黒い靄が絡みつくたび、体温が奪われ、骨の芯まで冷たさが染み込むようだ。
シャムスは右手の銃を連射しながら、左手で剣を構えるクレメンタインの動きを援護した。
しかし、弾丸は影をすり抜け、わずかに形を崩すだけ。
銃声が木霊し、硝煙の匂いが霧の中で広がる。
「シャムス、右!」
クレメンタインの声と同時に、右側の影が爪のような形に変わって襲いかかる。
シャムスは咄嗟に体をひねり、銃口を押し付けて撃ち抜いた。
だが反動と衝撃で右肩に激痛が走る。古傷が開いたのか、熱い感覚が服の内側を濡らした。
「っ……問題ない!」
そう言い放つも、額には冷や汗が滲む。
背後ではリナナがナイフを胸に抱え、必死に二人の背を追っている。
その目は恐怖と、何かを決意した光で揺れていた。
クレメンタインが正面を切り開くが、壁はすぐに閉じる。
まるで彼女たちの攻撃を学習しているかのように、動きが鋭くなる。
「核まで……持たせねぇ気か」
シャムスは奥に揺れる黒い球体を見据える。
脈動の間隔が早まっている。
──時間が経つほど、影は強くなる。
「行くぞ!」
痛みを押し殺し、シャムスは影の群れに飛び込んだ。
銃声と金属音が重なり、森の静けさを切り裂く。
しかし次の瞬間、左脇腹に焼け付くような衝撃。
視界がぐらりと揺れる。
影の爪が深く抉り、温かい血が溢れ出す。
「シャムス!」
クレメンタインの叫びが耳を打つ。
「まだ……終わっちゃいねぇ!」
ふらつく足で踏み込み、銃口を核の方向へ向けた。