影の根の戦い〜後編〜
影の中心部が露わになり、赤黒く脈打つ“核”が脅威の存在感を放っていた。
まるで生き物の心臓のように、ゆっくりと波打っている。
「……あれが本当の本体ってわけか」
シャムスは荒い息を吐きながら、深く腰を落として銃を構える。肩には鋭い爪によって裂かれた深い傷。流れる血は止まらず、握った拳は震えていた。
その隣にクレメンタインが滑り込む。彼女の服も土と血に汚れ、鉄パイプを握る手に力がこもる。
「もう一発だけ、撃てるの?」
「最後の弾だ……外せねぇな」
「なら、私が囮になる」
「バカ言うな。死んだら元も子もねぇだろ」
「じゃあ、あんたは守って。私もやるから」
クレメンタインは言い終わるよりも早く、影に向かって走り出した。細い体が跳ねるように瓦礫を飛び越え、影の目前で鋭く方向を変えながら動く。
「おい、クレムッ!」
シャムスは叫びながら、彼女の動きを視線で追い、核の位置を見極める。
リナナも岩陰から飛び出すと、手近な石を拾って影に投げつける。
「やめてよ!こっちを見て!」
その声に反応した影の体が一瞬揺れ、核が露出する。
シャムスは拳銃を握り直した。手のひらには、リナナから返してもらった折れた父のポケットナイフが温もりを残していた。
シャムスはそれをポケットに差し直し、そっと呟いた。
「親父……見てろよ」
腕の痛みに歯を食いしばりながら、震える右手を持ち上げる。
そのとき、影がリナナの方へと巨大な腕を振りかぶった。
「やめろッ!!」
足元を蹴って跳び出す。自分の体を盾にするようにリナナの前に立った瞬間──鋭い爪がシャムスの背を裂いた。
「ッぐ……!」
背中が焼けるように痛む。視界が揺れる。それでも崩れ落ちずに、シャムスは左膝をついた姿勢で、銃を核に向ける。
「……クレム……今だ!」
クレメンタインは全力で走り、影の左脚を鉄パイプで殴打する。ぐらついた影の体がわずかに傾き、核が完全に開かれた。
「今しかねぇ……!」
シャムスはすでに壊れかけた右手でトリガーに指をかけた。
父の形見のナイフをくれたリナナ。
共に戦ってくれたクレメンタイン。
全部──全部を守るために。
「……行けよ、親父の一発だ!」
引き金を絞った。
轟音と閃光が、洞窟に鳴り響いた。
弾丸は一直線に核へと向かい、赤黒く脈打つそれを貫いた。次の瞬間、核が破裂するように崩れ、影が悲鳴のような音を立てて崩壊しはじめた。
「やった……のか?」
崩れゆく影の体に、シャムスは倒れ込んだ。
「シャムス!!」
クレメンタインが走り寄り、彼の体を抱き上げる。全身が血に濡れていたが、まだかすかに息をしている。
「リナナ、急いで!脱出するわよ!」
「う、うん!」
リナナは涙を浮かべながら頷き、瓦礫の中で道を探す。
崩れゆく洞窟の奥。光が差し込むその先へ──三人は命を懸けて、走り始めた。