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誓いと残響

シャムスは、リナナの前に膝をついてしゃがみ込んだ。痛む肩を押さえながら、内ポケットから小さな革製のケースを取り出す。


「リナナ……ちょっと手を出してみろ」


少女が首を傾げながら手を差し出すと、シャムスはその掌に古びたポケットナイフをそっと置いた。

刃は途中で折れていて、すでに武器としては使い物にならない。


「……これ、折れてる……?」


「そう。使えねえよ。でもな……これは親父の形見だ」


シャムスは優しく笑い、リナナの手を包み込むようにしてナイフを握らせた。


「親父がきっと、お前を守ってくれる」


リナナの瞳が揺れる。彼女はナイフを見つめながら、ゆっくりと頷いた。


「……ありがとう。大事にする」


そのとき、小屋の隅で音を立てていたクレメンタインが歩み寄ってきた。ポニーテールが揺れ、泥と埃まみれの顔には疲労と安心の入り混じった表情が浮かんでいる。


「シャムス、肩……まだ血が止まってない。無理しないで」


「無理しねえと……お前ら守れねえだろ」


「だったら、私も無理する。誰かを守るって、そういうことでしょ」


シャムスは照れくさそうに鼻で笑い、彼女に銃を手渡された。リナナは二人を見上げて、ぎゅっとポケットナイフを抱きしめた。

そのときだった。彼女が不意に、かすれた声でつぶやいた。


「……私の本当のママじゃない、誰かに育てられてた。たぶん、あの影に」


空気が凍りついたように、二人の視線がリナナに注がれる。


「影が……お前を?」


「うん。でも優しかった。最初は怖くなかった。……でも途中から変わった。姿も、声も、心も。全部おかしくなって……」


クレメンタインがそっとリナナの背に手を当てる。


「リナナ、その記憶……全部思い出せなくてもいい。でも、今のあなたの中にあるものは信じて」


リナナは小さく頷くと、かばんの奥から一冊の古びたノートを取り出した。表紙には奇妙な文様と、英語とラテン語が混ざったタイトルが書かれている。


「このノート、さっき床下で見つけたの。見覚えがある気がして……怖いけど、読まなきゃいけないって思った」


クレメンタインがノートを受け取ってページを捲ると、風にあおられたように一枚のページが開かれた。

そこには、手書きの文字が不規則に並び、ある言葉が目に飛び込んできた。


“影はかつて人の心に棲み、やがてそれを喰らった。

それを止める鍵は——かつて心であったものの核。”


三人が黙り込む。シャムスは、血で汚れた手を見つめながらぽつりと呟いた。


「……だからあの時、銃が効いたのか。あいつの“核”を撃ち抜いた……」


リナナが、シャムスの顔を見上げる。


「影には核があるの?それが……人だった頃の名残り?」


「そうだな。全部じゃねえ……けど、まだ残ってる。ほんの、かけらだけ」


クレメンタインは深く息を吸い、ノートを閉じて立ち上がった。


「じゃあ、その核を狙って倒すしかない……私たちの力で」


リナナは拳を握りしめ、シャムスの肩に手を添えた。


「一緒に行こう。私も、逃げない」


そのとき、小屋の外から木のきしむような音が聞こえた。冷気が吹き込むと同時に、遠くで不気味な呻き声が響く。

三人はすぐに目配せを交わし、銃とナイフを手に、再び立ち上がる。


影は、もうすぐそこまで来ていた。


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