毒姫と呼ばれた私、戦場で英雄王に愛される
「毒姫」と呼ばれた私は、家族にも疎まれ、婚約者にも捨てられた。
私の肌に触れた者は体調を崩し、私が口にしたものを共に食べた者は倒れる。
理由は分からない。
ただ、私は生まれつき、毒を宿していた。
そんな私に与えられたのは、貴族としての優雅な生活ではなく、辺境の修道院での幽閉生活だった。
しかし、戦乱の世は私を見逃してはくれなかった。
ある日、敵国の軍が修道院を襲い、私は囚われの身となった。
そして、私を買い取ったのは、この戦乱の時代を勝ち抜く英雄王——アレクシスだった。
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「面白い女だな。お前は毒そのものだというのに、生きることを諦めていない」
アレクシス王は私に興味を持ち、戦略参謀として側に置いた。
彼はただの武人ではなかった。
冷静に戦局を見極め、時には非情な決断を下しながらも、部下には慕われていた。
最初は警戒していたが、彼は決して私を忌避しなかった。
むしろ、私の力を「有益だ」と言い、戦場で活かす道を見出した。
「お前の毒を使え。敵軍の水源を汚し、暗殺者の武器に仕込め。お前の生きる道は、ここにある」
私は、生まれて初めて「必要とされる」感覚を知った。
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私は王の指示のもと、毒を使った戦術を次々と考案した。
敵軍の糧秣を汚染し、兵の士気を奪い、密偵を処理する。
その功績により、私は王国の者たちからも「毒姫」として恐れられ、尊敬されるようになった。
しかし、それと同時に、私は王の隣にいることに戸惑いを覚え始めていた。
アレクシス王は、私に決して恐れを抱かず、時折優しさすら見せる。
「お前の毒は恐ろしいが……お前自身は、決して毒などではない」
そんな言葉をかけられるたびに、私の心は揺れ動いた。
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ある夜、戦の合間に開かれた小さな宴で、アレクシス王は私の手を取った。
「お前は、私の側にいてくれ。戦場だけではなく、これからもずっと」
「……それは、どういう意味ですか?」
「私の王妃になれ、リリエ」
私は息を呑んだ。
私の力を利用するためではなく、「私」という存在を求めてくれる人がいる——。
その事実に、私は涙をこぼした。
ーー
幾度もの戦を経て、アレクシス王はついに大陸を統一した。
そして、私は「毒姫」としてではなく、「王妃リリエ」として戴冠式を迎えた。
「毒を持つ女が王妃になるなど、あり得ない」
そう囁く者もいたが、アレクシス王は静かに告げた。
「ならば、お前たちは私の妃を敵に回すのか?」
誰もが沈黙した。
王の隣に立つ私は、もはや疎まれるだけの令嬢ではなかった。
私は、この国の王妃。アレクシス王の伴侶。
そして、彼のために生きることを選んだ、ひとりの女だった。