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未来の自分からの手紙

作者: 雉白書屋

「……ん?」


 部屋でくつろいでいると、突然「トサッ」と何かが落ちる音がした。音の方に目をやると、部屋の中央に一通の封筒が落ちていた。

 しかし、妙だ。この封筒はどこから来たのか。窓は閉まっているし、天井に穴が開いているわけでもない。他の郵便物に紛れていたとしても、まったく見覚えがなかった。

 考えても仕方がないので、とりあえず封筒を開けた。中に入っていたのは……手紙だ。


【親愛なる過去の私へ。お元気ですよね。こちらは、あなたから見て約五十年後の未来です。あなたはこの頃、毎日のように未来を憂いていましたね。ご安心を。空はまだ青く、海の生き物は絶滅していません。ただし、空飛ぶ車はまだ実現していません。万博は失敗に終わりました。そして、またオリンピックの開催が決定しました。

 とはいえ、人類がまったく進歩していないわけではありません。地上の車はすべて自動運転になりました。そのため、人々は運転の楽しみを忘れつつあります。スマートフォンは小型化され、脳に直接埋め込まれ、目を閉じるだけでインターネットにアクセスできるようになりました。確かに便利ですが、プライバシーはもはや幻想に過ぎません。

 また、このような手紙や本はすべてデジタル化され、感情共有機能が付いています。感動的なシーンでは、自動的に涙が流れる仕組みです。

 食事は錠剤一つで済み、味覚はVRで再現されます。美食家は絶滅危惧種となりました。人間の機械化が進み、平均寿命はますます延びています。

 でも、安心してください。人間は変わらず愚かで、政治家は変わらず口だけで、愛は依然として複雑です。

 そして、私たちは変わらず未来を夢見ています。もし、私があなたの時代に戻れるなら、もっと詩を読み、もっと愛を語り、もっと星を見上げることでしょう。でも、それはできません。だから、代わりに今のあなたにそうすることをお勧めします。未来より敬具】


 内容を読んで、おれは驚き、そして笑った。まさか、未来からの手紙だというのか。しかし、突然出現したことから考えると、冗談ではなさそうだ。

 それにしても、手紙を書く習慣などないおれにしては、なかなかよく書けているな。未来のおれが詩などを読んだ成果なのだろうか。悪くない。おれも今から詩を読んでみたくなってきた。

 ……しかし、なぜ未来のおれは、こんな手紙を過去に送ってきたんだ? ……と、まだ続きがあるな。


【P.S. タイムマシンのシステムにより、この手紙は間もなく未来へ戻ります。封筒に戻し、中に紙幣や金、宝石などを入れてください。未来の私にとって大いに役立ちます。どうか、投資だと思って――】


 書いてあったとおり、手紙は時間が経つとスーッと消えた。

 なるほど、未来も今と大して変わらないらしい。これは詐欺だ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。相手を選ばずに送りつけるタイプの詐欺だろう。そう、相手を選ばずに……。

 おれは部屋の隅に積まれた督促状の封筒を見下ろした。相変わらず、おれには未来が想像できない。

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