招かれざる客
「うん、人選ミスだな」
昼食のステーキで腹いっぱいの俺が今やっているのは店先の飾り付け。
幻竜祭まであと半月、村の飾り付けが着々と進みお祭りムード全開になっている今、ポーション屋がこれに乗り遅れるわけにはいかない。
しかし、店主はこの重要な仕事をあろうことか新人の店番に任せた。
店先を飾る植木とランプ、そして竜の彫刻……まるで地獄の門だ。
戦闘しか取り柄のない竜人にはやはり美的センスが皆無らしい。
「誰も近寄らないぞこんな店……」
そんなことを呟いていると店の中に居たシューバが一階の窓から顔を覗かせ、こちらに期待の眼差しを向けてきた。
「どう? 上手くできた?」
「……見れば分かる」
「ちょっと待ってて、すぐ行くから」
程なくして店から出てきたシューバは、俺の成果を見て言葉を失った。
「……っ…………」
「一応聞くけど、どうだ?」
「えっと……一応聞くけど、真面目にやったんだよね?」
「もちろん」
苦笑いするシューバに俺は即答した。
「うーん……まぁこれはこれで観光客の目を引きそうだからアリかもね」
「いやナシだろ」
直前まで苦笑いしていたはずのシューバがいつもの笑みを浮かべている。
「僕らが仮装すればそれっぽくはなるんじゃない?」
「本気かシューバ!?」
彼が言うなら間違いないのかもしれないが、こんな出来の悪い飾り付けをあと半月も衆目に晒されるのはちょっと困る。
「————シューバ……!?」
突然通りすがりの剣士がその名に反応し俺たちの後ろで立ち止まった。
「シューバ——シューバだよなっ……!?」
彼は膨れたリュックを地面に転がし目を見開いてシューバを指差す。
「知り合い?」
「…………ううん、知らない……」
シューバは僅かに首を振り声を低くしてそう答えた。
普段と様子が違う……明らかに知り合いだな。
「お前こんなところに居たのかよ……! あの時随分探したんだぞ」
安堵した様子でそう話す剣士だが、俺の隣に居たシューバは暗い表情を浮かべ早々にその場を離れていく。
「ごめんエドラ、ちょっと工房に戻るよ」
「あぁ」
「おいどこ行くんだシューバ! そうやってまた逃げるつもりか!?」
店に入るシューバの後を追おうと一歩前に出た剣士を俺は咄嗟に制止する。
「離せ——お前は関係ないだろ!」
そう言って至近距離で打ってきた拳を俺は顔を逸らして回避し、彼の足をすくって地面に押さえつける。
「いでっ——」
「これでも店番だからな、店主の知り合いを装うような変人を店に入れるわけにはいかない」
「俺はあいつの幼馴染だ! シューバ——俺たちのことを忘れたとは言わせない! ナターレは今も、王都でお前を待ってるんだぞ!!」
必死にそう訴える剣士の声にシューバは耳を貸す様子もなく扉を閉じてしまった。
しかしそのすぐ向こう側にはまだ、暗い顔をした彼が立っているような気がした————
~~鱗のお兄さんからひとこと~~
『洗濯した民族衣装が乾いてない時はシューバのお下がりを着て外に出ているが、ファッションセンスがないせいでほぼ確実にシューバに手直しされる』