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冒険者の恋

「——本気でシューバに会うつもりか?」


「親分はふたりもいらねーからな! あってはなしをつける!」


 ペブルさんが三つ子姉妹を俺に任せて探しに行っていた子はトトだった。

 ボール対決に敗れてすぐにペブルさんは広場へと戻ってきたが、トトが俺の腕を引っ張って広場から逃げたせいで去り際にこの子を任されてしまった。


 もう少しでポーション屋に着く……さて、シューバになんて説明しよう……。


 ————あれこれ言い訳を考えているうちに店に着いてしまった。


「お?」


 店に扉に張り付く怪しい男が二人と、それを道端から呆れた様子で眺める男が一人。


「そんなとこで何してんだ?」


「エドラさん、こんにちは」

 道端に立っていたのはポーション屋の常連客、冒険者のシェーンだ。

「すみません……中に居るバニリアの様子がどうしても気になるみたいで……」

 シェーンはそう言いながら扉に張り付く冒険者仲間の二人に目をやった。


 たしか、ハンマーを背負ってる方がボルタで、杖を持っている方がファロって名前だったな。


「バニリアのやつ、またシューバを口説きに来たのか?」


「今日はシューバさんをお祭りに誘うと言ってました。例年通りならシューバさんの露店の手伝いを申し出るんですが”今年はエドラさんがいるからチャンスかもしれない”と……」


「なるほど……あの男どもがこの世の終わりみたいな顔をしてるのはそういうことか。冒険者の色恋は大変だな……」


「うちのパーティーはかなり平和な部類だと思いますよ」


「そうなのか?」


「——おい子分! はやくなかにはいるぞ!」

 意外にも傍で大人しく話を聞いていたトトが突然痺れを切らした。


「すまんすまん、入ろうか。悪いシェーン、またな」


 だがまずはあの二人に扉の前から退いてもらわないといけない。


「おい、退いてくれるか?」


「ボルタ……このままだと僕たちのバニリアがあのイケメン優男に取られちゃうよ」

「バカヤロー、男に必要なものは結局のところ強さなんだよ。強い冒険者なら金だって稼げる、顔がいいからって女を幸せにできるとは限らねぇ」

「シューバさんって昔は王都じゃ有名な凄腕冒険者だったって噂だよ? ポーション屋だって配達でかなり儲かってるみたいだし、多分僕たちじゃシューバさんのスペックにはどう足搔いても勝てないよ……」

「ホントのこと言うんじゃねーよ……悲しくなるだろ……」


 シェーンが自分のパーティーは平和だって言ってた理由がなんとなく分かった気がする。


「おーい、そこ退いてくれるか?」


「おぉぉ……! あんたか……すまんこんなとこで……!」


「そんなに気になるなら中に入ったらどうだー?」

 扉を開け、トトを連れて入りながら二人を店内へと促す。


「いやいや、お構いなく……!」


「そうか」

 彼の返答がきた瞬間、俺は中から躊躇なく扉を閉めた。


 バタンッ——————


「あ~ぁ~、シューバさんとお祭り回りたかったな~」

「ごめんね。初めての幻竜祭でエドラに店番させるのは悪いから」


 倉庫部屋からシューバとバニリアの話し声が響いている。


「ただいまー」


「おかえりエドラ——あれ、トト?」

 倉庫部屋から顔を出したシューバはすぐにトトの存在に気付いた。


「お、おまえの子分はきょうからオレのものだ……! わかったか……!」


「えっと、子分……? 何の話……?」


 当然の反応だな。


「エドラさんがボール遊びでトトに負けて子分になった、違う?」

 シューバの後ろから顔を覗かせたバニリアが得意げな表情で言う。


「そういうことだ」


「なるほどね。それでわざわざトトを連れてきたの?」


「お、オレだってきたくてきたわけじゃないんだぞ……!」

 トトのやつ、店に来る前はあんなに威勢が良かったのに今は目が泳いでいる。

 実はシューバが苦手だったりするのか……?


「こ~ら、トト。シューバさんに酷いこと言っちゃダメっていつも言ってるでしょ~」

 バニリアがトトの前に屈み、彼の両頬を優しく引っ張る。


 すると、みるみるうちにトトの顔が赤くなり、態度も別人のように柔らかくなった。

「ご、ごめんなさい……。でも鱗の兄ちゃんを子分——仲間にしたから……! それをおしえようとおもって……!」


 ほほぉ~ん。


 このクソガキ、年の離れたバニリアに惚れてるんだな。

 店の前でシェーンを見た辺りから静かになったりシューバ相手に当たりが弱かったりするのは、全部バニリアに嫌われるのを恐れてのことか。


 良いこと思いついた————


「バニリアバニリア」

 手招きしながら小声でその名を呼び、寄ってきた彼女に耳打ちをする。

「今すぐそのガキ連れて帰ってくれたら祭りの日それとなくシューバと店番変わってやる」


「シューバさ~ん、今日はこの辺で帰るね~」


「あ、うん。またね」


 彼女が俺の提案を聞き行動に移すまでのスピードは恐るべきものだった。


「ほらトト、広場で遊んであげる、いくよ~」

「オレ、バニリアとキャッチボールがしたい!」

「うんうん、そうしよっか~」


 そうして二人はあっという間に店から姿を消した。


「ふぅ……平和が戻った」

 息をつく俺の後ろ姿を見てシューバがクスッと笑う。

「エドラ、絶対あの子に負けると思ってなかったでしょ」


「うるせぇ……」


 次からトトに絡まれたらバニリアに助けてもらうとするか。

 ~~鱗のお兄さんからひとこと~~


『シェーンはバニリアが目当てでパーティーへの加入を申し込んでくる他所の村の冒険者に迷惑している』

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