真剣勝負
なんだ、このクソガキ。
ボールをぶつけられたと思ったらいきなり現れて俺を子分呼ばわりするとは。
「なんだーお前」
「オレはトト。カナフ村のリーダーだ!!」
「——村長はアルのパパよ」
アルは間髪入れずにそう言ったがトトのことは視界にすら入っていないだろう。
「とにかくっ! おまえはすでにオレの子分だ! わかったらはやくついてこい!」
さてどうやってこのクソガキを追い払おうか……。
三つ子の輪から外れて立ち上がり、近くに転がっていた茶色のボールを拾う。
「悪いなクソガキ、俺は既に雇われの身だ。お前の子分になる気はねーよ」
俺はハッキリとそう断り拾ったボールをトトに向かって優しく投げた。
トントンと数回跳ねて足元に転がったボールを静かに拾うトト。
駄々でもこね始めるかと思ったが、奴は依然として余裕の表情を浮かべていた。
「じゃぁ——ボールでオレと勝負しろ!!」
トトはそう言って手のひらに乗せたボールを前に突き出した。
そうだな……ここで痛い目を見ればあのクソガキも諦めてくれるだろう。
「受けて立つ! 勝った方が負けた方を子分にする、これでいいか?」
「いいぜ」
「トトとボールで勝負しないほうがいいわよ」
突然木箱を押しながら広場の端に移動し始めたアルが言う。
「心配するな。ズルされたってあんなガキに負けたりなんかしねーよ」
「……まけてもしらないから」
ルールは簡単、互いに距離を取ってボールを当て合い三点先取した方が勝ち。攻撃側は投げたボールが相手に触れて地面に落ちると一点、防御側は投げられたボールを地面に落とさず受けきると一点、ただそれだけだ。
「じゃぁオレからいくぜ」
「いつでもこい」
互いに余裕の表情で言葉を交わし、広場の端から三つ子姉妹に見守れる中しずかに風が止むのを待つ。
ボールはトトの手にある、俺はただあいつの投げたボールをキャッチすればいい。
風がピタリと止まりトトがボールを振り被った————
「おりゃぁぁ!!」
彼の投げたボールは、小さな男の子の体から放たれるような可愛らしいものではなかった。
「はっ————!?」
進路上の土を巻き上げ形が歪むほどに高速回転するその球体は、俺が驚いている間に両手をすり抜けて腹に直撃してしまった。
「いでっ——ゴホゴホッ……! ちょっとタイム……そんな大砲みたいな球が飛んでくるとか聞いてないぞ……!」
「アルはちゅうこくしたわよ」
「ウルしってる、トトはおとなにもボール当てで負けたことないの!」
「イルも……村のみんなもしってる……」
それをハッキリ言ってほしかった……!!
「でも……一度見てしまえば問題ない、次はキャッチできる。まずはこれを当ててからだ!」
全力で投げたつもりだった————しかしトトは俺のボールを全身で受け止め余裕の笑みを浮かべた。
「ふんっ」
「あのガキぃ……!」
これでトトは二点、次あのボールを受け止められなければ俺はあいつの子分となる……それだけはイヤだ!
「おわりだ——ひっさつ!! スーパートトボール!!」
こい! どんなボールでもキャッチしてやる!
そしてトトから放たれた豪速球は————なぜか10個に増えた。
「お前何か魔法使ってるだろ!!」
中心——きっと中心のボールが本物だ。
迷っている暇はない、受け止めろ!!
「取った————ぶごっ!?」
キャッチしたはずのボールはフェイクだった。
俺は顔面にボールを受け、その衝撃と子分が確定した脱力感のあまり後ろへと倒れてしまった。
「……うっ…………」
「はっはー、オレのかちぃ!! もう逆らえないぞ、おまえは子分だからなっ!!」
負けた……あんなクソガキ相手にボールで負けた……。
あんな子供が魔法を使えるわけがない……実際魔法の反応はなかった……ただただ負けた……超悔しい……。
あー……シューバになんて説明しよう……。
~~鱗のお兄さんからひとこと~~
『竜人の里で定番の遊びといえば魔法無しの乱闘。実のところ球技はド素人である』