カナフ村チルドレン
いつもなら店番をするか部屋でゴロゴロしている昼下がり、今日の俺はシューバの勧めで幻竜祭の準備期間に入った村の様子を見て回っていた。
草刈りをする人、家の外壁の掃除をする人、馬車から大量の木箱を積み下ろす人、みんな祭りが楽しみなのか村はいつも以上に活気に溢れている。
「お兄さ~ん」
ペブルさんの声——村の中心を流れる細い川の向こう側にある広場からだ。
川を跨ぐ短い石橋を渡り、手招きするペブルさんの元へ向かう。
「ここにいたのかペブルさん」
広場に着くと、彼女は三人の小さな女の子と一緒に祭りの準備をしているところだった。
「橋のこっち側にはあまり来ないでしょ? 紹介するわ、アルちゃん、イルちゃん、ウルちゃん……村長さんのところの三つ子ちゃんよ」
んー……服装は全員同じ、顔もそっくり、だがアホ毛の数が三人とも違う。
アホ毛が一本だけの子がアル、二本の子がイル、三本の子がウルだ。
「エドラお兄さんだ、よろしくな」
「鱗のお兄さんもいっしょにお面つくろ!」
ウルが元気な声でそう言いながら両手で掴んだドラゴンのお面を見せてくる。
「いいぞ~。でも難しくないか?」
「紐をつけるだけ、かんたんよ」
小さい割に落ち着いた口調のアルが横からそう言った。
すると、三つ子の前で屈んでいた俺の肩にペブルさんがそっと手を置いた。
「少しのあいだその子たちをお願いしてもいい? 他の子の様子を見てくるから」
「おぉ、戻ってくるまでお面作ってるぜ」
その後、俺は三つ子姉妹に混ざって青い空の下で木箱を囲みお面に紐を結び付けていった。
「ねぇねぇ鱗のお兄さん」
作業中右からずっとチラチラと俺の方を見ていたイルが遂に口を開いた。
「どうしたー?」
「鱗のお兄さんの鱗は、ドラゴンさんの鱗? それとも、お魚さんの鱗……?」
そんなしょんぼりした顔されたら”お魚さん”って答えられないだろ……。
まぁ子供に嘘をついてまで隠すようなことでもないか。
「おーそうだぞー。俺の鱗はドラゴンさんのかたーい鱗だ」
俺はそう答えながら持っていたお面を被り両手を掲げる。
「どんな武器でも傷ひとつ付けらないぞー、ガオー!」
ペブルさんは言っていた、子守をする時は自分も子供になればいいと。
「わぁ——! ドラゴンさんの鱗! さわってもいい!?」
「いいぞー。でも皆には内緒だ、沢山触りに来られたら鱗が擦り減って無くなっちゃうかもしれないからな」
袖を捲って右腕を差し出すとイルは目を輝かせながら何度も頷いてみせる。
「うん……! みんなにはないしょ……!」
彼女がそう言って俺の右腕の鱗をツンツンし始めると、それにつられたウルが作業の手を止めて俺の元に寄ってきた。
「ウルもさわりたい!」
「今回だけだからなー」
ペブルさん早く戻ってきてくれ……!
楽しそうに俺の鱗で遊ぶ二人とは対照的に、左に座るアルは澄ました顔でお面の紐を結び続けている。
「ドラゴンの鱗がさわられただけですりへるわけないわ。ほんとは魚の鱗なんでしょ」
「あ、アルもどうだ……? 左腕空いてるぞー……?」
「アルはいいわ。りゅうじんがこんなところにいるはずないもの」
断れた……あいつだけ中身が大人だったりしないか……?
そんなことを思った直後、突然後ろから飛んできた柔らかい物体が後頭部に当たった。
「いてっ……」
イルとウルに右腕を掴まれたまま後ろを振り返る。
「ボール……?」
「おいおまえ!!」
地面に転がるボールの延長線上に立つ一人の男の子が決め顔で俺を指差している。
「うわっ——トトがきた!」
ウルが心底嫌そうな顔でそう言いながら少年を指差した。
「ペブルばあちゃんがいってた新入りだな!! 今日からおまえは、オレの子分だ!!」
「………………はぁ??」
~~鱗のお兄さんからひとこと~~
『アルは5歳の割に大人びているだけあって、他の姉妹よりも手先が器用でお面の紐の結び方を教えるのも上手かった』