読書の時間
今日はいつもより早く夕飯を食べ終えた。
こんな日はシューバの書庫を漁ってベッドでごろごろするに限る。
書庫は俺が使ってる屋根裏部屋と繋がっているおかげで往復もかなり楽だ。
ちなみにシューバの部屋は書庫の隣で、あまり夜遅くまで読書をしていると本を没収される危険がある。
「さて……今日は何を読むか」
シューバのコレクションは魔法についてあれこれ書かれた魔導書が多めだが、俺が読みたいのはそういうのではなく、プライベートで読んでいて楽しい娯楽小説。
悪に立ち向かう魔法使いの話、魔法学園が舞台の青春物語……。
里の竜人族が鍛える無意味な魔法と違って、本の登場人物たちの魔法にはどれも魅力がある。
前者は悪を倒し弱き者を救う魔法、後者は夢を実現するために日々努力し成長していく者の魔法。
魔法の本来あるべき姿が本の中には当たり前のように存在する——これが娯楽小説にハマった理由だ。
「んー、魔法ものは大体読みつくしたな。村に本屋はないし……今度シューバにポーションの配達ついで新しい本買ってきてもらうか?」
そんなことを考えながら本棚から適当に一冊引っ張り出し、あらすじを読んでみる。
「推理小説……前回読んだ作品はラストが微妙だったからなー…………まぁ、他に読みたいものも無いし試しに読んでみるか」
その後————
「シューバ! シューバぁ!」
読み終えたばかりの本を抱えて階段を駆け下り、物音がするキッチンへと全速力で向かう。
「この本の続きどこにある! 書庫に見当たらねーぞ!」
「静かに……夜だよ?」
キッチンで作業していたシューバが呆れた顔で人差し指を口に当てながら言う。
「あっ……すまん」
「その本、僕も続きが読みたいんだけど人気過ぎてなかなか手に入らないんだよ」
「マジか……」
「それよりエドラ、また書庫散らかしてない? ずっと天井からゴトゴト聞こえてたけど」
「い、言うほど散らかしては……ないと思うぞ?」
「ペブルさんから貰った果実ジュース飲みたいなら、早く書庫を片付けてくること」
「すぐ行きます!」
急いで書庫を片付けたあと、俺とシューバは橙色の果実ジュースを片手に推理小説について語り合った。
「シューバは公爵を毒殺した黒幕誰だと思う?」
「ん~新人メイドの発言に気になる部分もあるけど、やっぱりメイド長かな。ほら、二巻で次男が殺された時もアリバイが————」
「ちょっと待て……! 二巻で次男死ぬの……!?」
想定外の発言に俺は思わずコップをテーブルに叩きつけ椅子から立ち上がった。
「あれ……? 二巻まで読み終わったんじゃないの……?」
「いやいや、俺が読んだのは書庫にあった一巻だけだぞ……?」
俺はジュースが飛び散ったテーブルの向かい側に座るシューバを見下ろし僅かに声を震わせながら言う。
「あ————そういえば二巻は僕の部屋にあるんだった」
「うぁぁぁネタバレ食らったぁぁぁ!! 次男お気に入りだったのにぃぃ!!」
「ごめん!! ほんとにごめん!!」
「やってくれたなシューバ! ネタバレのダメージがこんなにデカいとは思わなかったぞ!」
向かいの席に回り込みジュースを持ったシューバに容赦なく飛びかかる。
「ごめん! ごめんってば! 落ち着いてエドラ、ジュースこぼれるから!」
このあとしばらく言い争いが続いたが、シューバが今後三巻以降を頑張って収集するという約束で丸く収まった。
~~鱗のお兄さんからひとこと~~
『シューバの書庫には恋愛ものの娯楽小説が一冊も見当たらない』