お祭りデート
夕刻————
幻竜祭を回った帰り道、シューバはバニリアから渡したい物があると言われ家に招かれた。
「座って待ってて~」
「うん」
村の川沿いにあるバニリアの家はワンルーム。
家具などは必要最低限の物しか置かれてなく、とても彼女の住んでいる家には見えない。
不思議そうに家の中を眺めるシューバにバニリアは湯を沸かしながら言う。
「想像してたより地味だった~?」
「そうだね……もっとお洒落な部屋が好みかと思ってたよ」
「昔はね~。国を追い出されてから、自分には地味な生活の方が合ってるって気付いたの」
「国を追い出されたって……?」
「没落貴族ってやつ。七年前——わたしが十三の時にパパが他の貴族に裏切られて、一家全員国外追放。今はパパもママも、弟も、みんな海を渡って遠くの国に行ったけど、わたしだけその船に乗らずにあちこち流れてこの村にやってきたの。いかにも自分たちは不幸です~って顔してる家族とあれ以上一緒に居るのはイヤだったから」
「その話、シェーンや他の冒険者仲間にはしてあるの?」
「ボルタとファロは知らない。シェーンが秘密にしてくれてるから」
「そっか。万が一何かあっても、シェーンならきっと力になってくれるよ」
「それ、シューバさんは力になってくれないってこと~?」
バニリアが頬を膨らませてシューバの顔を横から覗き込む。
「違う違う、そういう意味じゃないよ……! せっかく話してくれたんだから、もちろん僕にできることがあれば協力するつもりだよ……!」
「ふふっ、冗談だってば~。はい、お茶どうぞ」
シューバの慌てる表情を楽しそうに眺めながら紅茶を出すバニリア。
「あ、ありがとう……」
「それと~これ。シューバさんにプレゼント」
彼女はベッドのサイドテーブルに置いていた一冊の本を手に取り、それをシューバの前に置く。
「これ……僕が探してた薬草図鑑の最新版……」
「エドラさんと射的した時に見つけたの」
バニリアはそう言ってシューバの向かい側に座る。
「貰っていいの?」
「もちろん。シューバさんにプレゼントするために取ったんだから~」
「ありがとう、大事にするよ」
「どういたしまして!」
その後ティータイムを済ませてポーション屋へと戻る途中、バニリアは思い出したようにシューバに尋ねる。
「ねぇシューバさん、今朝の女とどういう関係?」
「えっと……ナターレのこと? 彼女は幼馴染で冒険者——」
「それは知ってる」
バニリアはシューバの返答を遮り食い気味に言う。
「わたしが聞きたいのは本当にただの幼馴染なのかどうか。シューバさんって案外鈍感じゃないでしょ——わたしの気持ちに気付いてるならちゃんと答えてほしいな」
その台詞を聞いたシューバはすぐに足を止め、向かい合ったバニリアの目を真っ直ぐ見てこう答える。
「ナターレは僕にとって大事な幼馴染で、この気持ちはハルバに対しても同じだよ。昔ナターレから告白に近いことをされたことがあるけど、僕はそのとき彼女に対する見方を急に変えられなくて断ったんだ。だから僕とナターレは今も幼馴染の関係のままだよ」
「……真面目に答えてくれてありがと……シューバさん……」
「ううん。バニリアが昔話をしてくれたんだから、僕もしないとダメだよね。そういうことだから、できればナターレと仲良くしてあげてほしい。素直で優しい人だから、きっとバニリアとも仲良くなれると思うよ」
「シューバさんがそこまで言うなら……頑張ってみる」
「うん、ありがとう」
「————シューバぁ~!!!!」
人通りの少ない脇道にナターレの声が響き渡る。
「ナターレ!?」
驚いた表情を見せるシューバの胸にナターレが全速力で飛び込む。
目の前でシューバに抱きつくナターレを見てバニリアはぽっかりと口を開けている。
「なんで脚治ってるの!? あと声も……!」
理解が追いつかず微かに声を震わせながら尋ねるシューバ。
「エスピナさんが会ってすぐに魔法で治してくれたの! これでもう車椅子もいらない、またシューバと色んなところに行ける!」
「あの人、幻影魔法の他にもそんな高度な治癒魔法使えたんだ…………治ってよかった……本当に良かったよ……!」
シューバは涙を堪えながらナターレを強く抱きしめる。
「よくもわたしの目の前で……!」
二人に聞こえないようバニリアがボソッと言った台詞をナターレは聞き取っていた。
「見たくないならあっち行ってて、メス猫さん」
「な、ナターレ……?」
困惑するシューバの胸元から顔を覗かせ澄ました顔でそう言ったナターレに、バニリアは笑顔で怒りを爆発させた。
「シューバさん前言撤回~。わたしやっぱりこの女と仲良くするのムリ~」
~~バニリアお姉さんからひとこと~~
『わたしの趣味はお菓子作り。仕事帰りに材料を買って次の休日にひとりでティータイムをするのが密かな楽しみ』




