プレゼント選び
ある日の店番中、一人の赤髪の魔法使いが店にやってきた。
「いらっしゃい」
その少女は店内をきょろきょろとしながらカウンターの前にやってくると、慣れない様子で一枚の札を俺に差し出した。
「ぽ、ポーションの受け取りに来ました……」
「はいよ。今用意する」
札を預かり少女をその場に残してカウンター裏の物置部屋に入る。
「二番二番……」
この隅っこの棚に置かれているのは、店に並べるポーションとは別にシューバが客の注文通りに調整したオーダーメイドの品だ。
札に書かれた内容と木箱の中身を照らし合わせカウンターに運ぶ。
「お待たせー。今店主不在だから、一応全部確認してくれよ?」
「は、はい……」
彼女は十本以上ある瓶を一つずつ丁寧に確認すると、顔をあげてこちらに小さく微笑んだ。
「大丈夫です、ありがとうございます」
「お礼なら店主にどうぞ、俺はただの店番だから。ていうかお代は?」
「あぁぁ——すみません……!」
少女は慌てた様子で硬貨の詰まった革袋を差し出した。
「はいどうも」
代金を確認するため預かった革袋の口を開け、用意したトレーに金貨を少しずつ積みながら数えていく。
頼む、数え間違えるから今だけは話しかけるなよ!?
「あの——」
…………。
「どうした?」
「ギフト用のポーションって、置いてますか?」
「あるある。ちょっと待ってろー、持ってくるから」
再び物置部屋に入り、奥の棚の一番上に置いてある木箱を引っ張り出す。
俺がこの店に来た時は若干ほこりを被っていたが、店番中の暇な時間を使って手入れをしておいて正解だった。
他のポーションよりも瓶の装飾が凝ってて値段も張るからちょっとだけ触るのが怖かったけど……。
「はいこれ。あんまり種類ないから、ピンとくるようなやつがないならこっちのカタログから選んでオーダーメイドしてもらうのも手だぞ」
「ん~………………」
すごい真剣だな、誰にあげるんだろ。
「美肌のポーション……これにします」
「ほぉ、ラッピングは?」
「らっぴんぐ……?」
「そのポーションをプレゼント用の木箱に入れて、こういう模様の布で包む感じ」
俺はそう説明しながらカウンターの引き出しからラッピング用の風呂敷を取り出した。
「わぁ……綺麗ですね! お願いします!」
この反応、さすがシューバだ。客の心を掴むのが上手い。
「了解」
その後、買い物が済んだ魔法使いの少女はポーションの入った木箱を抱えて満足そうに帰っていった。
「ありがとうございました!」
「まいどあり~」
翌日————
店先の掃き掃除をしていると、いつものように散歩中のペブルさんが店の前を通りかかった。
「おはよう、お兄さん」
「あ、おはようペブルさ——ん?」
おかしい。
「ペブルさん、なんか今日ツヤツヤしてない?」
ペブルさんの顔が朝日を反射するほど異様にツヤツヤしている。
「あら、分かる? 昨日うちの孫娘がおたくに来たでしょ、貰ったポーションがさっそく効いたのね」
「孫娘————えっ!? あの魔法使いペブルさんの孫!?」
「パレアっていうの。魔女のエスピナさんのところに弟子入りしててね……北の森に通っていつも修行してるわ」
「へぇー、修行ねぇ」
じゃなくて————!!
話の流れにつられるとこだった。
俺は掃除用のほうきを肩に担いで全速力で店に戻り、ほんの僅かに開いた扉の隙間から店主の名を呼んだ。
「シューバ……! シューバ……!」
「どうしたの?」
声を聞いたシューバが首を傾げながら店の奥からやってくる。
「昨日売れたギフト用の美肌ポーション、あれ不良品じゃないだろうな!? ペブルさんの顔スライムみたいになってるぞ!」
「え? 分量は間違えてないはずなんだけど……まさか」
原因が分かったのかシューバは俺が挟まっていた扉を開け店の外に出た。
「ペブルさん、パレアさんから貰ったポーション、どんな味がした?」
「味? 美肌になるって聞いたから、葉っぱを浸けて寝る前にお顔に貼ったわよ?」
「は、貼ったぁぁぁ!?」
常識外れな回答に思わず大声が出た。
「ペブルさん……ポーションは飲むものだから、口から入れないとちゃんとした効果がでないよ……?」
さすがのシューバも頭を抱えていた。
「効果ならしっかり出てる気がするわよ?」
それは出すぎだって…………。
このあと、ペブルさんが家で保管していたポーション浸けの葉っぱを見つけたパレアが店に謝りに来た。
~~鱗のお兄さんからひとこと~~
『ペブルさんは、見たところ現役魔法使いの孫娘パレアよりも魔力の反応が強い』