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レアポーション

 俺は今、露店の店番中だ。


 バニリアと祭りを回ってるシューバが帰ってくるまではこうして背もたれのない木製の椅子に座り、道行く観光客たちを眺めていよう。


「ふぁ~……」


 ちょっと眠くなってきた……ハルバは今頃村の近くの臨時キャンプ場で昼寝してるんだろうな……羨ましい……。


 露店の傍にたむろする若い観光客たちの声が聞こえてくる。

「お腹空いたー、なんか食べない?」

「見ろよあれ、魚人だ」

「ねぇ知ってる? 魚人って好きな人に告白したりプロポーズしたりするとき、真珠のアクセサリーをプレゼントするんだって」

「魚臭い奴にそんなもんプレゼントされて嬉しいか?」

「少なくともあんたよりはイケメンよ? あの男」

「イケメンなら誰でもいいのかよ……」


 頼むから他所で話してくれ……お前らのせいで客が寄り付かなくなりそうだ。


 しかしそんな不安を抱いたのも束の間、村長のところの三つ子姉妹が露店にやってきた。


「こんにちは! 鱗のお兄さん!」

 ウルがテーブルの横から飛び出し大きく手を振る。

「おー、来たのか。あれ……ペブルさんは一緒じゃないのか?」


「——今日は僕が一緒です」

 三姉妹の後ろからバニリアの冒険者仲間のシェーンが現れた。

「祭りの日は村長さんから個人的に護衛の仕事を頼まれるんですよ」

「子守じゃなくて護衛なんだな……」


「ふたりがどうしてもっていうから、しかたなくついてきてあげただけ」

 アルはいつの通りみたいだ……。

「このポーション甘くておいしいぞ~?」

「鱗のお兄さん、これ」

 イルがテーブルの向こう側からゆっくりと顔を覗かせ、三枚の小さな札を差し出した。

「まいど。みんな好きなの選んでいいぞ」


 この札はポーションの無料交換券。

 せっかく祭り限定のポーションを改良したからと前日シューバが村に住む子供たちにこれを配って回っていた。


 各々楽しそうにポーションをひとつ選ぶと、アルは上品に一口、イルは数回に分けて、ウルはゴクゴクと一気に、それを飲んだ。

 イルとウルの黄色い髪がすぐに白髪へと変化し二人のテンションが上がる。

「わぁ~! イルの髪がしろくなった!」

「ウルも、白くなってる」


 変色が遅れている様子のアルが自分の髪を掴んで心配そうに眺めている。

 ていうか三つ子の中でアル一人だけ魔法耐性が高いのか……。


「アル」

 彼女は口を噤んだまま視線をこちらに向けた。

「さん——にぃ——いち——ぜろっ!」

 俺がカウントダウンと同時にアルを指差すと、彼女の髪と瞳がみるみるうちに虹色へと染まった。


 変化した自分の髪色を見て目を輝かせるアル。

「きれい……」


「虹色……! 虹色は一本しか作ってないレアなやつだってシューバが言ってたぞ!?」


 アホ毛まで虹色だ——


「アルすごーい!」

「き、きれい……」

 アルの虹色の髪を見てイルとウルもまた目を輝かせる。

「ウルにのませて!」

「ダメ。じぶんのぶんがあるでしょ」

 ウルにポーションを奪われそうになりアルはすかさず抵抗する。

「おーねーがーい! ウルもそれがいい!」

「ダメったらダメ!」

「あっ——まてー!!」

 その場から逃げ出したアルをウルが追いかけ始めた。


 走り出した二人を見たシェーンがほんの少し慌てている様子。

「こらこら……! 遠くに行かないで……! すみませんエドラさん、僕らはこの辺で……!」

 彼はすぐにイルの手を握り二人を後を追い始めた。

「ばいばい、鱗のお兄さん」


「また来いよー」


 あれはあと一人くらい子守——もとい、護衛を雇った方が良さそうだな……。

 ~~鱗のお兄さんからひとこと~~


『村の子供たちに配ったポーションの無料交換券は、実は祭りの準備期間中にシューバに頼まれて俺が手描きで作ったもの』

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