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ポーション屋

 朝食——それは一日の始まりに行う大事な大事な栄養補給。


 これを摂るか摂らないかで今日一日の俺の充実度が決まると言っても過言ではない。


 だから朝食の時間だけは、誰であろうと邪魔は許さない。


 俺の朝食の邪魔をする——それは竜の逆鱗に触れるのと同義だ。


「はい、今日はいつもよりちょっとだけ良い肉だよ」

 花の水やりを終え朝食の席についた俺の元にシューバが特大ステーキを運んできた。

「お~うまそ~!」


「朝からよくこんな重たいもの食べれるね……」


「シューバが小食なだけだって。いただきまーす」


「僕は人並みだよ。エドラの胃袋がおかしいんだって」


「そうかもなぁ」

 特大ステーキを口に入るギリギリのサイズでカットし最初の一口目を頬張ろうとしたその時、まるで狙ったかのようにあの男がポーション屋の外にやってきた。


「シューバぁぁぁ!! エドラぁぁぁ!! 出てこーい!!!」


 両手にあるナイフとフォークは既にぐにゃりと曲がり小刻みに震える。


「どうしたー! もう起きてるだろー! 早く出てこーい!」


 ハルバのやつ……本当に来やがった……! しかもこんな朝早くに……!


「おいシューバ、あいつはお前の知り合いか? それともポーション屋の客か?」


「どっちでもないよ」

 シューバは澄ました顔でそう答えながらキッチンへと戻っていった。


「じゃぁ蹴り飛ばしても問題ないな——!!」

 曲がったナイフとフォークをテーブルに叩きつけ全速力で店の外へと飛び出す。

「朝からうるせーぞどっか行けー!!」


「ぶはぁぁぁーーー!?」


 ほとんど手加減なしに蹴り飛ばしたハルバは綺麗な軌道を描き、前方の建物を軽々と越え村の外へと消えていった。


「よし、静かになった。今度こそ食べるぞ」


 しかしハルバはその後も連日ポーション屋へとやってきては店の前で大声をあげ俺の蹴りを食らい続けた。


「ほんとに懲りない奴だなあの変人は……」

 店番中の午前、ハルバのことを思い出しひとりため息をつく。


 明日は幻竜祭本番。あいつは死ぬまでここに通ってやるなんて言ってたけど、さすがに冗談だよな……?

 祭りが済んだら村を出て行ってくれると信じたい……。


 カウンターから虚ろな目で窓の外を眺めていると、見覚えのある客が店の扉を開けた。


「あ、いらっしゃい」


 ペブルさんの孫娘——パレアだ。


「あの、以前買ったポーションなんですけど、効果を少しだけ調整してほしいと師匠が……」


「あぁオーダーメイドのやつか。めもめも……あーレシピも要る、ちょっと待ってろ」


 普段立ち入ることのないシューバの工房の扉を開け、外出中の彼に小さな声で断りを入れる。

「シューバ~、ちょっと入るぞ~……」


 工房の中心に置かれた定番の大釜、壁の棚一面に並ぶポーションとそれに使う素材。

 売り場のような洒落た雰囲気は微塵もないものの、この工房を見ているとシューバはただの店主ではなくポーション職人でもあるということを再認識できる。


 窓際のデスクに積まれた大量のレシピ本、この中に目当ての物があるはず。


「え~っと、オーダーメイドオーダーメイド…………あ~? どれだ~?」


 手当たり次第に本を漁っていたその時、偶然開いた本の傷みが他と比べてあまりに酷く俺は思わず体の動きを止めた。


「っ……なんだこれ……」



 既存の製法で——獣の毒による侵蝕と——後遺症を同時に治す薬————のは極めて困難。

 まずは彼女——に残った侵蝕を————段階的——治療——していく方法を————



「…………まさかシューバがポーション屋をやってるのって……」



 それから数時間後、買い出しを終えたシューバが店に帰ってきた。


「ただいま————えっ、パレアさん? なんでカウンターに居るの……?」

 置物のように椅子に座り自分を出迎えたパレアに困惑するシューバ。


「エドラさんに店番を頼まれたので。あとこれをシューバさんに渡してほしいと」


「店番が店番頼んでどうするの……」

 彼はそう言いながらパレアに差し出されたメモ用紙を受け取った。



 『ちょっと山にハルバ埋めてくる』



 書かれていた内容に理解が追いつかずシューバは戸惑いながらパレアに尋ねる。

「ん~っと……エドラから他に何か聞いてない?」


「明日の朝までには帰ってくると言ってましたね」


「え、本当にハルバを埋めに行ったのかな……」



 その頃俺はカナフ村から遠く離れたシューバの故郷——()()に居た。


「旅のお供に上質なポーションはいかが~飲めばたちまち傷が癒えて筋肉モリモリに!」


 カナフ村とは比較にならないほど人が行き交う大通り、こんな怪しい客引きに目をくれる者はいない。


「旅のお供に腕利き職人()()()()のポーションはいがか~」


 しかしただ一人————空色の髪をもつ女性はその車椅子から必死の表情で俺の左手のポーションに手を伸ばしてきた。


「君がナターレ?」


 俺の問いかけに彼女は手を伸ばしたまま大きく二度、頷いた。

 ~~鱗のお兄さんからひとこと~~


『陸路で数日かかるような遠い場所でも、竜人族なら翼を生やしてひとっ飛び』

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