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Star trail.  作者: メロ
encore episode.
41/43

track 3. Part 2.& extra side.

 •extra side.???



 ──たまたまだった。



 いつものように何か良い曲がないかとネットで動画を漁っていた時、彼らを見つけた。

 言動も表情もクール、でも歌は熱く歌うボーカル兼ギターの風間ジュン。何事もそつなくこなし、みんなをまとめるベースの加賀ヒイロ。小さな身体でも激しくパワー全開、ドラムの木原キイチ。そして、表には一切顔を出さず具体的に何をしているかは不明、通称協力者の山下くん。その四人で構成されるバンド──『ドッグ•レンズ』。

 彼らのジャンルを問わず、取り入れたいものは何でも取り入れる自由な音楽はもちろん。ネットで人気が出てもジュンの『音楽だけで飯を食っていける訳がない』という信条を守り、バイトをしながら音楽活動を続けている等、少し変わった人間性も含めて好きで。いつか直接この目で彼らのライブを見たい。そう思っていた。

 でも、ボクはまだ中学生だし、住む町から遥か遠くで行われているライブに参加するのは金銭的にも難しく、親の許しも貰えない。直接見るなんて夢のまた夢、と諦めていた。


 しかし、思わぬチャンスがやってきた。


 ある日、『ドッグ•レンズ』のアカウントでヒイロの地元の町おこしイベントに緊急参戦すると告知された。奇しくもそれは隣の県で行われ、行けない場所ではなかった。

 どうしても見に行きたい。

 受験の時期と重なり、親を説得するのは大変だったが、何とか許してもらい、姉ちゃんに車を出してと頼み込んで──見に行ける事になった。



 クリスマス当日。会場に着いた瞬間、テンションはあがった──がしかし、何というか。屋台があったり、スタンプラリーやら、ご当地ヒーローのショーだとか、来てくれた人を楽しませようとするイベントは結構あるし、力は入れていたとは思う。とはいえ、ライブをするであろうステージはこじんまりしていたし、客席もイスがあるのは前の数十席だけであとはブルーシートで理想とのギャップに戸惑ったというか。まぁ、見に来たのはライブだから細かい事には目を瞑り、適当に時間を潰した。


 そして、いよいよこの時が来た。念願の初『ドッグ•レンズ』のライブをこの目で。



 ──たまたまだった。



 ボクは彼女達── 『A’Ste×ride(アステライド).』の事は何も知らなかった。『ドッグ•レンズ』の他にもステージに立つグループがいるのは知っていたけど、それだけ。地元の女子高生が学校の部活でアイドル活動をしていたなんて微塵も知らなかった。

 ステージに上がった彼女達を見ても、せっかくここまで来たし聴いていこう。そんな軽い気持ちしかなかった。

「……え……?」

 流れてきたのは知らないはずなのに、何処か聴き覚えのある不思議な曲。それを聴いていると妙な安心感を抱いて。


 突然、雪が降り出し。

 サンタクロースをモチーフにしている衣装も相まって、ステージで踊る彼女達が雪の精のように見えて。

 すごく綺麗だと。


 ありふれた言葉から紡がれる歌詞。

 それは何にも突っ掛かる事なく胸の中に浸透して、ぽかぽかと暖めてくれる。背中を押してくれるようで。


 ホロリと頬を伝う涙。

 それの意味を知るのは彼女達のライブを見て、しばらくしてからだった。



 * * *



 それはクリスマス三日前のこと。

 突然、美采から電話がかかってきて、


「あ、もしもし、美采。 どうしたの?──え。 そんな……」


 彼女の言葉があまりにも衝撃的で、しばらく何も考えられなかった。


 雫、菊花、茜ちゃん、私、そして美采。みんなで『A’Ste×ride(アステライド).』としてステージに立ちたい。

 それなのに、美采の参加が絶望的だなんて──



 *



 クリスマス、町おこしイベントの当日。今日は朝からイベントのボランティアスタッフとして手伝い、夜からのライブで歌うことになっている。だから、朝にいなくても夜までに、ステージが始まるギリギリでもいいから来てくれれば──。




 分かっている。


 美采は私達と違ってプロ。本当のアイドル。

 仕事が入ればそちらが最優先だし、今だって事務所が許可してくれているから私達と活動出来ているだけで──この繋がりは簡単に切れてしまうし、いつ切れてもおかしくない。いつだって怖い。


 もし。もしも美采が私と変わらない普通の女の子だったら良かったのに。そんなことを考えたのは一度や二度じゃない。

 だけど、何度考えても今の関係じゃないとダメ。そうでなければ私と美采が巡り合うことはなかったと思う。お互いにアイドルを目指していたから、あの星に•あの輝きに心を動かされたから──あの時、私達は出会えて、ぶつかって、こうして一緒に。いや、美采が選んでくれた。



 だから、最後の瞬間まで希望は捨てたくない。

 私は信じている。美采もおんなじ気持ちだと。

 きっと、この五人でステージに立ちたいと思ってくれている。

 だって、美采は私の進む道を照らしてくれる"存在ひかり"で、かけがえのない"仲間ともだち"で、最高の"好敵手てき"だから


 そう、自分に言い聞かせる──



 *



 とっくに日は沈み、ライブの開演時間まで残り僅か。

 直接は見ていないけど。屋外ステージ脇にある簡易楽屋からでも客席に人が集まりつつあるのは分かっていた。

「そろそろだね、結々」

「うん」

 菊花の言葉に対して頷きはするものの、私が見ていたのはスマホの画面だけ。いつもならそういうことはしないけど。今だけは許してほしかった。

 朝からずっと美采に送っていたメッセージにはちゃんと既読がついている。でも、返事は一切なくて。


 ──お願い。


 気が引けていた電話をかけてみるも、やはり繋がらず。きっと、私はすごく落ち込んだ顔をしていたんだと思う。そうじゃなかったら、雫がそっと手を握って、優しく微笑んでくれることはなかったはずだから。

 気持ち、切り替えなきゃ。

「あの、結々さん」

「ごめんね、心配かけて。 大丈夫だよ」

 茜ちゃんに笑顔を向けてから、もう一度だけメッセージを送る。これが最後のメッセージ。

 やっぱり、返信はなくて既読もつかなかった。

「よし。 いこっか」

 テーブルの荷物と一緒にスマホを置き、雫、菊花、茜ちゃんと一緒にステージへ向かう。最後の最後、曲が流れるその瞬間まで完全に諦めたくないけど。だからといって、ここにいる仲間を蔑ろにしちゃいけない。

 残念だけど。もう覚悟を決める時間だ。

「ストップ」

 その時、何故か今日一緒に共演させてもらうバンド──『ドッグ•レンズ』のリーダーである風間ジュンさんに呼び止められた。

「君ら、五人で歌うはずだろ。 あと一人は?」

「そうなんですけど。 間に合わないみたいで」

「電話、もうしないの? 俺、キイチが寝坊した時とか鬼電するけど」

「はぁっ⁉︎ なんでいきなりボクの話を」

「キイチ。 今ジュンは大事な話をしてるから」

「んな。 ちぇっ」

「ねぇ、しないの?」

「やり過ぎると迷惑になりますし、もう時間もないので。 お気遣いありがとうございます」

「その子と一緒にステージに立ちたくないの?」

「ッ‼︎ それは……。 立ちたいです」

「じゃあ、しなよ。 迷惑とか考えず」

「でも、もう」

「時間欲しい? そうなら言ってよ、自分の口で」

「え」

 そんなこと、言えるはずがない。

 だって、私達はあくまで前座。今日のライブの主役は『ドッグ•レンズ』のみなさんで。厚かましく順番を変わってほしいなんて。


 ──美采ならどうするだろ。


 ギュッと手に力がこもる。

 もし美采が逆の立場だったら。迷わず。出来ることは何でも。

「お願いします。 順番を変わってください」

「私からもお願いシマス!」

「お願いします」

「あ、あの、お願い、しますっ‼︎」

「みんな」

 雫も、菊花も、茜ちゃんもおんなじ気持ちで。胸がトクン、と高鳴った。

「キイチ、ヒイロ。 準備して」

「はぁ? ボクはもう準備万端ですけど」

「ジュンは分かりやすいからね」

「ふーん、そう。 なら、良かった」

「みなさん。 ありがとうございます!」

「お礼ならサインでいいよ」

「へ。 サイン、ですか」

「弟が君のファンだから」

「あっれぇ〜? ジュンに弟がいたなんてボク初耳だなぁ〜」

「オレも付き合い長いけど。 初耳だ。 隠し子かな」

「…………」

「えーと」

「今のなし。 あとで絶対サイン貰うから、ゆーゆん!」

 ステージへと向かっていく『ドッグ•レンズ』のみなさん。その後ろ姿はかっこよくて、感謝の気持ちでいっぱいで。

 だけど、ゆーゆんっていったい……。

結々(ゆゆ)! 電話! 電話しまショー!」

「あ。 うん」

 せっかくいただいた時間。一秒だって無駄にしちゃいけない。

 すぐさま美采に電話をかける──繋がらない。

 でも、諦めずもう一度──繋がらない。

 それでも、もう一度──繋がらない。

 何度だってかける──繋がらない。

 諦めない。美采が出るまで──繋がらない。

 私は絶対に美采と一緒にステージに──繋がらない。

 お願い──繋がらない。

 お願い、お願い──繋がらない。

 お願い。お願いだから──繋がらない。

 届いて──繋がらない。

 私は美采がいなきゃ──

『ちょっと! さっきから何なのよ! 何度も何度も』

「……美采ぉ……」

 ようやく繋がった。

「今、どこにいるの?」

『駅に、着いたところだけど』

「すぐいくっ!」

 電話をかけたまま、

「ごめん、みんな! 迎えにいってくる!」

 走り出していた。

 もう衣装に着替えているから走りにくいなんてことも忘れて。

 がむしゃらに走っていた。

 人波をかきわけて、少しでも早く彼女の元に行きたくて。

 走っていた。




『線路沿いの道で向かってるから』

「うん。 分かった」

『電話、かけ過ぎよ。 それに……』

「ごめん。 ちょっと色々あって」

『あんなメッセージ送らないでよ』

「あんな? あんなってどんな?」

『だから、私がいなきゃ……とか』

「だって、美采がいないのは嫌だったから」

『あれなら離れていても気持ちは一緒だとか。 そっちの方がまだマシだったわ』

「えぇー。 それは本当にダメな時に取っといたんだよ」

『何よ。 まるで今日は大丈夫みたいな物言いね』

「うん、絶対に来てくれるって信じてたから。 って言いたいところなんだけど。 ごめん。 一回もうダメかもって覚悟しちゃった」

『バカ。 そういう事は言わなくていいのに』

「ダメだよ! そんなの!」

『言わなければ、知らなかったし。 嘘も方便よ』

「ぜーったいにッ! いくら美采が正しくてもそれだけはしないからね」

『全く。 そんなんじゃ先が思いやられるわね』

「いいもん。 別に──ねぇ、美采」

『何?』

「これってただの憧れなのかな? あのアニメみたいに、五人で歌いたいのって」

『は? 知らないわよ』

「……私ね、美采が来れないかもって言った時すごい不安で。 今日は一日ずっと怖かった。 こういう事が積み重なって、いつか美采がいなくなるんじゃないかって」

『何よ、それ。 気持ち悪いわね』

「なっ⁉︎ 美采ぉ! 私真剣なんだからね!」

『私だって真剣よ。 心の底から気持ち悪いと思ったわ。 何を勝手に弱気になっているのよって』

「…………」

『結々?』

「ごめんね。 信じて待ってられなくて」

『全く。 言ったでしょ、貴方は私の"好敵手てき"だって』

「うん」

『だから、勝手にいなくなったりしないわ。 寧ろ、貴方が逃げ出さないかの方が心配だわ』

「それはないよ。 絶対に」

『そう。 なら、いいのだけれど。 ところで──随分とお洒落な格好ね。 まずはメリークリスマスって言った方がいいかしら?」

「えへへ、美采も着るんだよ。 これ」

「そうだったわね──」




 fin.

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