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Star trail.  作者: メロ
encore episode.
39/43

track 3. Part 1.

遠い潮騒が聴こえる

吹き荒ぶ風の中

耀く君は星そのもの 描くは果てなき宇宙


泡沫の夢でも 灰になっても

海に溶けて消える日が来ようとも


決して消えない

一生のたからものを この胸に秘めて

 通学路の木々もすっかり葉を落とし、マフラー無しでは外に出られない程、風も冷たくなった頃。


『結々さんにお願いがあります。 また私と一緒に曲を作ってくれませんか? それで、良ければ──』


「次は一緒にステージに立たせてください、か」


 数日前、電話で話した茜ちゃんの言葉を空に向かって呟いてみても。未だにどこかふわっとしていて、あれは現実じゃなかったような気がしてしまう。決してそんな事はないのに、なんでだろ。

「ねぇ。 ねぇ、結々! 結々っ!」

「あ」

「どうしたの? ボーっとして」

 私を覗き込む真っ黒な瞳とサラサラで綺麗な黒髪。

 気がつくと毎朝待ち合わせをしているコンビニ到着しており、幼馴染の菊花に何度も話しかけられていたようだった。

「おはよ、菊花。 いやぁ、今日はなんだかいつもよりぽかぽかしてるね」

「曇ってる」

「……だよね」

「話聞くけど」

「その、ね」


 ──学校に向かいながら、このふわっとした気持ちについて話したところ。


「別に嫌って訳じゃないんでしょ?」

「うん。 叶うなら五人でステージに立ちたいって思ってた。 思ってたけど。 上手くいき過ぎてる……みたいな」

 クリスマスに町おこしのイベントをするからそこで歌ってほしいとお願いされて、そのための曲を茜ちゃんが協力して作ってくる事になって、さらに一緒にステージにも立ってくれる。それは私にとってはすごく嬉しいこと。なのに、素直に受け入れられない。本当は映画か何かを見ていてフィルムが切れたら、そこで『はい、おしまい』って現実に戻されるんじゃないかって。

「あだっ」

 突然、頭に痛みが走る。当然それは菊花の無慈悲なチョップによるもの。

「考え過ぎ」

「え。 もしかして声に出してた?」

「出してない。 けど、顔を見れば分かる」

「あー……なんかごめん」

「自信持てば」

「へ?」

「結々はそれだけのことをしてきたんだと思う。 私は」

 やや早足になって、そっぽを向く菊花。彼女の言う通り最近は学校でも、学校の外でも私達の活動を応援してくれる人がたくさんいる。それは今まで頑張ってきた結果に違いない。

 だったら、

「うん。 そうだね!」

 こんなに風に悩んでたら申し訳ないよね。ありがとう、菊花。


結々(ゆゆ)ー! 菊花キッカさーん!』


 いつもの交差点が目の前に迫ると、もう到着していた雫がこちらに気づき、大きく手を振ってくれた。

「おっはよー」

「おはよう、しず」

「ハイ! おはようございマス!」

 今日の雫はかなり上機嫌。なので、歩きながらその理由を聞くとやはり茜ちゃん絡みだった。雫曰く、朝から一緒にランニングと軽い筋トレをして、それが楽しかったとのこと。姉妹で仲良く何かに取り組む。それは私には出来ないことなので少し羨ましかった。

「曲の方も順調みたいデスヨ!」

 今回はみんなで歌いたい内容をパッとイメージ出来たので作詞はもう済んでて、茜ちゃんに送ってある。菊花の方も衣装、振り付け、ともに大丈夫らしい。だから、曲が完成するのをゆっくり待つだけでいい。

 今は心配することなんて何も。

「あ゛」

 一つだけあった。

「どうしよ……もうすぐ期末テストだった‼︎‼︎」

「期末テストくらいで大袈裟過ぎ」

「そりゃ、菊花は成績優秀だから心配ないだろうけど」

 雫へと視線を移す。

 菊花は学年五位、雫は学年十位で、なんと美采は学年四位。私も上から数えた方がまだ早いけど。かなり危うい。

 私はどちらかと言えば文系。だから、理•数は苦手で赤点ギリギリな時もあって……今回の分野は割と苦手で……不安しかない。もし赤点を取ろうものなら、冬休みは当然補習。そうなると、学校側から町おこしのイベントへの参加は容認出来ないなんてことになりかねなくて……。

「お願い雫! また、教えてくれない?」

「ふふん、どんとこいデス!」

「ありがとー! これでもう期末はバッチリだよ」

「ねぇ、待って。 今どうして私から目を逸らしたの?」

「え。 それは……」

 中間テストの時、あまりにもスパルタだったから……とは言えないよね……。

「分かった。 ねぇ、しず。 三人でテスト勉強しよう。 きっとその方がいい」

「え゛」

「おー、三人寄れば文殊の知恵というやつデスネ! ぜひそうしまショー!」

「あ、あははぁ……──」



 *



「……ん……」

「…………」

「……ぅ……」

「…………」

「……っ……──あ、アボカドラーメンっ⁉︎⁉︎」

「ちょっ、いきなり何なの」

「……ゴーヤ増し増し?」

「は? 何を訳の分からない事を」

「んー、ここは天国? オア地獄?」

「残念ながら、ここは私の家よ」

「あー。 おやすみなさい──い゛ぃ゛っ」

 テーブルに伏せた瞬間、ぎゅうっとほっぺをつねられる。それは目覚ましも兼ねているせいか。一切容赦がなくて、もう優しい夢の世界へ逃がしてもらえそうになかった。

「全く、バカやってないで真面目にやりなさい」

「うー。 美采には分かんないよ。 賢いから」

「はいはい、そうね。 いいから手を動かしなさい」

「……はい……」

 ふと遠い夏の日の記憶がよみがえる。小学生の頃、もう夏休み最後の週だというのにまだ宿題が残っていて、おかあ……いや、菊花だったかな? ともかく、あの時も『泣き言はいいから手を動かして』と宿題をやらされたっけ。いやはや、良くも悪くも私はあの頃と何も変わってないことをしみじみ実感する。

「手、止まってるわよ」

「……はい……」

 期末テストまで残り三日。今日は菊花も雫も用事があったので代わりに美采に勉強を見てもらうことになった。美采もやっぱり菊花みたいにスパルタなのかと思いきや、ただ問題集を解かせるだけで至って普通だった。そう至って普通だから逆に集中出来なくて、ついウトウトしてしまう。

「ねぇ、美采ってなんで勉強出来るの?」

「貴方ね、私の邪魔をするのなら帰ってもらうわよ」

「ち、違うよ! 美采って仕事で忙しかったりするのに成績良いから、何かコツとかあったりするのかなぁ。 なんて」

「ないわよ。 そんなの」

「そっか……やっぱり、美采は元々頭がいいんだね。 私と違って」

「バカ言わないで。 そもそも学校のテストくらい基礎をしっかりやれば問題ないわよ」

「えー、それじゃ私がちゃんと基礎をやってないみたいじゃん」

「じゃあ、聞くけど。 貴方は何故今テスト勉強をしているのよ」

「何故って。 予め勉強しておいてテストで良い点数を取るためだけど」

 美采は、まさに予想通り。呆れたと言わんばかりの苦々しい顔つきでため息をつくと、キリッとした眼で私を睨み『私は違う』、『ちゃんと基礎が身についてるかの確認よ』と言い放った。

「え? 何が違うの?」

「貴方、多少分からない事があってもテスト前に勉強すればいいと思ってるでしょ」

「うぐっ‼︎⁉︎」

「私はそのままにしたりしない。 分からないところはその時にちゃんと聞くし、理解出来るまで考える。 分かるかしら?」

「えーと、つまり……今になって身につけようとしてるのは遅過ぎる、ってことかな」

「物分かりはいいじゃない。 なら、自分の不真面目さを呪って真面目に勉強する事ね」

 あぁ……美采って菊花とは別の意味でスパルタだ……。


 ──けど、美采の言っていることは間違いなく正しい。

 私は小さな甘えが積もり積もって、その報いを受け、今になって遅れを取り返そうとしてる。本来ならそんな事をする必要はなく、美采のように時間を有効活用する事だって出来た。

 なのに、コツがないかだなんて、楽をしようと。それどころか……。

 自分でもこのままじゃダメだと反省した。だから、その後は心を入れ替えて、真面目に勉強に取り組んだ。


「どうかな?」

 じーっと問題用紙を見つめる美采。その目つきはとても真剣で、ヒヤリと汗が出る。テストに向けて彼女が作ってくれた練習問題とはいえ緊張感は本番と変わらなかった。

 ほんの二、三時間だけど。分からないところは丁寧に教えてもらい、ちゃんと理解した……つもりだけど。

「そうね」

 ビクリッ、と背筋が伸びる。

 続く言葉がどうなるのか。すごくドキドキして、ドキドキして、

「貴方にしては上出来じゃない」

 その一言を聞けた時、すごく安心した。

「この程度で満足せずこれからも頑張る事ね」

「うん。 …………」

「何よ、まじまじと。 不満でもあるのかしら?」

「ううん、美采ってなんか先生みたいだなって。 教え方も寄り添ってくれるって感じで上手だったし」

「何かと思えば。 見様見真似で家庭教師の真似事をしただけよ」

「家庭教師いたんだ。 それって今?」

「中学受験の時よ」

「ふーん。 そういえば、前の学校ってどんなとこだったの?」

「自分で調べて」

 美采に学校名を教えてもらい、スマホで検索してみると──驚かずにはいられなかった。かつて美采が通っていたのはいわゆる名門校。学業•スポーツはもちろん、数多くの芸能人も輩出していて、この学校を卒業すれば将来は安泰と言っても過言ではない。それくらいすごい学校だと紹介されていた。

「ね、ねぇ、美采。 ここ入るの大変だったよね? なのに、どうして」

「別に。 真面目なだけで息の詰まるところだった。 それだけよ」

 絶対に嘘だ。

 美采のことだからその学校に入学した目的があったはずだし、そんな理由で転入を決める訳がない。きっと、何か別の理由があるに違いない。

 けど、

「そっか」

 本人が話したくないなら無理に聞いたりしない。

 それに、

「何よ。 急に笑ったりして」

「そろそろ休憩しようよ! 私アイス食べたーい!」

「全く。 好きにすれば」

「じゃ、買いにいこっ!」

「ちょっと、なんで私まで」

「いいから、いいから〜。 えへへ──」



 私としては美采がいてくれて──。



 *



 同好会の部室に着いた瞬間。

「終わったー!」

 そう叫ばずにはいられなかった。

 期末テストも始まってしまえばあっという間で。その解放感はいつも以上に心地良く、胸がほくほくして。雫、菊花、美采──三人へのお礼は、

「みんな、ありがとうね!」

 自分でもやりすぎと思うくらい声を弾ませてしまった。けど、それは仕方のないこと。教えてもらったところはバッチリ解けたし、手応えも十分だったから赤点は絶対にない。

 誰一人欠けることなくみんなでステージに立てる!

 それが嬉しくてたまらなかったから。

「これで赤点だったら笑えないわね」

「ちょ、美采! そんなこと言わないでよ! 大丈夫! 絶対、大丈夫だから!」

「そう。 解答欄がズレてない事を祈るわ」

「うっ、そんなこと言われたら不安に……」

「結々がそんなミスをするはずがない」

「菊花ぁ……!」

「あるとしても名前の書き忘れくらい」

「それもないよっ!」

 二人して人のことを揶揄って……もう!

「あの、水を差すようで申し訳ないのデスガ」

 ここに来るまではいつもと変わらない。穏やかな表情をしていた雫はいつの間にか神妙な顔つきになっていて、茜ちゃんのことで相談があると口にした。

 そして、

「え。 作曲が、うまくいってない……?」



 ────。



「じゃあ、またね」

「デス」

 雫とは交差点で別れ、近くの公園へ場所を移す。そして、ベンチへ座り、菊花と美采と話し合う。もちろん、先程の茜ちゃんの件について。

「で、どうするつもり?」

 一人立ったまま腕を組む美采、その問いにすぐ答えられなかった。

 雫にこれ以上不安になってほしくなかったから踏み込んだ話は避け、『もう少し様子を見よう』と先延ばしにしたけど。残された時間は二週間と少し。諸々の事情を考えるとかなり険しい。

 隣の菊花に目をやると無言のまま頷き、どうやら彼女も私と同じ考えのようだった──迷っている時間はない。

「こういう時って最悪の事態に備えて私達で曲を作ったり。 割り切ったりするべきなんだよね。 きっと」

 でも、それは茜ちゃんを傷つけることになるし、私達の望むステージじゃなくなってしまう。そんなのは嫌。

 それに、

「茜ちゃんね。 私に、『任せてください』って言ったんだ。 だから……」

 彼女を信じてあげられないのはもっと嫌だった。

「私は下手に優しくして後悔するのはごめんだわ」

「美采」

「私もあの子には期待してるし、熱意も買っているわ。 けど、貴方と違って私はあの子の事をよく知ってる訳じゃない。 信じられないわ」

 微笑んでしまいそうなのをグッと堪える。

 ありがとう、美采。きっとそういう事を今の私に言ってくれるのは貴方しかいない。その優しさのおかげで私も勇気を持って言える。

「私。 歌詞、書き直そうと思う。 五人で歌うってどういうことかちゃんと考えたい。 ……んだけど、いいかな?」

「私は結々に同意。 で、アンタは?」

「別に。 好きにすれば」

「二人とも、ありがとう。 それでね、ちょっと相談があるんだけど──」

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