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Star trail.  作者: メロ
5th extra episode.「君を呼ぶ」
29/43

Prologue.(side.菊花)

始まる 本当の夢が


 インターホンを鳴らし、待つ事数十秒。玄関のドアが開き、中からぶかぶかシャツにメガネ。さらにゴムで前髪を結んでいる──自宅ならではのラフな格好をしたマリちゃんが出てきた。

「あれ? 菊花じゃん! どったの急に?」

 手間を省く為に彼女の問いは無視し、手に持っているケーキの箱を見せると快く中に入れてくれた──。

「前来た時も言ったけど。 いい加減掃除しなよ」

 部屋中に散らばった衣服・アクセサリーと参考書やレポートを含む紙の山。辛うじて足の踏み場があり、ゴミ袋や空き缶等、不衛生なものは放置されてないからまだマシだけど。夢のワンルームとは名ばかりの汚部屋だ。大学生の一人暮らしはもっとしっかりしてるイメージがあったのに、マリちゃんの部屋に来る度にそれが幻想だったと思い知らされる。

 もし一人暮らしをするなら、こうはなりたくないし、従姉妹として恥ずかしいとさえ思う。

「前にも言ったけど。 これはあたしなりに最適化してんの。 ほら、座りなっと」

「ちょっと待って」

 流石に、これらの服の上に座るのは心苦しいので。綺麗に畳んでスペースを確保してから座ると、ニヤニヤした顔で『まっじめ〜』と言われた。服を作る者としてこれくらいの配慮は当然だと思うけど。それを言ったところで時間の無駄か。

「おぉ、これよ! これこれ〜」

 机に置いたケーキの箱からモンブランを取り出し、満面の笑みを浮かべるマリちゃん。こういう時、彼女が歳上だと思えなくなるけど。自分に素直というか、歳を重ねても心は少女のままというか。そういうの、ほんの少しだけ羨ましいと思わなくもない。

「いっただきまーす! んっ! んん、んまぁ〜い」

 もうモンブランに手をつけたマリちゃんはさておき。後でSNSにあげる為、自分用に買っておいたショートケーキの写真を撮っておく。

「流石はイマドキのJKだねぇ。 すーぐ写真撮っちゃう」

「別に。 そういうのじゃないから」

 いつか役に立つかもしれない。SNSをやっていたのはその程度の理由しかなく、今となってはもうお役御免状態。だから、ただ惰性で続けているだけ。

「ところで、なんでケーキ持ってきてくれたの?」

「一応、この間のお礼」

 あの日、結々の背中を押す為にフェス用のドレス製作を引き受けた。

 結々のドレスは作りかけのものがあったから、徹夜をすれば私一人でも大丈夫だった。だけど、しずのドレスはそういう訳にはいかず、一から作らなければいけなかった。

 もしもの場合を考慮して、ドレス製作に費やせる時間は三日程。いくら無理をしても私一人では不可能だった。そこで私の洋裁のせんせいでもあるマリちゃんに協力してもらっていた。

「あたしと菊花の仲じゃん。 そんな気つかわなくていいのに」

「そうだね。 散々私に頼って貸しだらけのマリちゃんに気をつかう必要なんてないよね」

「え。 やー、それはその……あはは」

「でもね、私は他人ひとに頼っておきながら何のお礼もせず、ヘラヘラ笑う大人にはなりたくないの」

「もしかして、責められてる? あたし責められてるのかな?」

「責めてない。 ただの反面教師だから。 流石は私のせんせい、頼りになるよ」

「ごめんってば〜。 また衣装作りとか手伝うからさ〜」

「別にいい。 次とかないし」

「そう? ダンス続けてたら、自分の衣装は自分で作りたいって思う時くると思うけどなぁ」

 大きなため息をついてから『それはマリちゃんだからだよ』と返すと、彼女は何やら企んでいるような含みのある顔で『そーかもね』と言い、高らかに笑った。

 そして、

「けど、あのドレス。 菊花が自分で着ると思ってたな。 あのアニメ、えーっと……ライスみたいな名前の……何だっけ? まぁ、ともかくめっちゃ好きだったじゃん」

「私じゃない。 好きだったのは結々」

「どっちも一緒じゃん。 二人仲良く何回も見ちゃってさ。 どんだけ好きなんだYoって」

「別に。 私は」

「もっとさ、旬の作品を見ようよ! 旬のさ!」

「……は?」

「そこで今回ご紹介したいのはこちら! 『シェルハート・ヴァンぷ』でーす!」

「……はぁ?」

「ざっくり言うと、素性を隠しながら人間社会で暮らす吸血鬼と人魚のお話で。 二人はひょんなことから仲を深め、次第に惹かれあっていくんだけど。 めちゃくちゃいいの! サト×クミがアチチなのっ! ぶっちゃけありがちな設定ではあるんだけど。 吸血行動への後ろめたさとか、それでも持っちゃう血へのこだわりとか、陽の下を歩けなくて人に羨望を抱いてるとか、サトミのキャラクター性に活かされてるのがほんと良いの。 でね、クミはクミで人間に擬態しても鱗を隠せないから、シスターに扮して肌を隠してるの。 あ、でも、元々優しくて、おっとりした性格だからマッチしててガチの天使なんだよ。 けれど、あくまで処世術。 クミはそれが後ろめたくて、出来ることなら本当の自分で人に優しくしたいのに人魚だから出来ないの。 その理由はさ、さっきのサトミとおんなじで人魚の逸話って言うのかな。 ほら、不老不死の薬にする為に乱獲からの物扱いみたいな。 そういう背景で身分が低いんだよね。 だから、正体を隠さざるを得ない。 それって陽の下を歩けないサトミと重なるものがある訳で。 そこから仲良くなっていく過程を丁寧に描く三話まで是非とも見てほしいの!」

「…………」

「それでね、見終わって気に入ったら、もし気に入ったらでいいんだけど。 今度のイベントに一緒に行ってほしいなぁって。 ぜひ菊花に手伝ってもらいたいことがあるんだ〜」

「……はぁ──」

 改めてこういう大人にはなりたくないと思った。

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