『この世界の創造者』
仁和は藤伽に来ていた。路地裏まで歩いてくると壁に阻まれた場所に来る。壁に手を付けるが見た目通り硬い感触でただの壁でしかない。
(俺がここに来た時はその空間能力が発動していた。そうでなければ、俺はここへ来れなかった)
仁和は宇僚の監視をするべく再び地球へと降りた。しかし、彼は見つけられなかった。
「参ったな。宇僚がおじいちゃんになる前には会ってやりたいが」
仁和は日差しの暑さにやられ路地裏の影で休みながら誰もいない空間に冗談めかしたセリフを吐くと空間能力を使ってタオルを取り出す。
「……ん?」
仁和は路地裏の奥に目をいかせると、行き止まりになっている壁に空間能力が見えた。
「なぜ、能力が」
仁和は引き寄せられるようにその中へと入りこんだ。
入ってみれば景色が違う場所へと繋がっている。何階か数えきれないほど高さを誇る木造建物、空中を飛んでいる魚。
(どう見ても日本では無い)
仁和は目を瞑ると口を開く。
「探索能力」
能力を使用した後、ズキリと頭が痛むのを感じた。
「どうやら宇僚はこの世界にいる様だな」
仁和は確信すると背中側にあった空間能力がブツリと音を立てたのが聞こえ振り向く。もうそこには空間魔法はなく木製の壁だけが存在していた。仁和はその壁をじっと見つめていると背後から声が聞こてくる。
「君、何してんの?」
振り向くと桜色の髪色をした男が目に入る。路地の合間から見えた人々と格好が違い、軍服を着ている男は仁和をまっすぐ見つめていた。
「俺が見えるのか?」
「見えるけど?」
それから仁和は歩夢の体を借りるようになり、宇僚と再会できた。
(恐らくここの空間能力と魔獣討伐をしたネクニアに現れた空間能力は同じものだ。だが妙な点がある。空間能力自体に物を造形する力は無いという事だ。なら二つ持ちの可能性を考えるが造形能力でもこんなにも広い範囲を作れるのは不可能だろう。穴が無いかと思ったがどこへ行っても完璧に作られた世界。図書館にあった歴史を見る限り、千六百年前からこの世界は存在しているらしいが天界で調べた所、この世界の事は記されていなかった。この空間能力は誰のものなのか、この空間魔法の中に作られた世界は誰が作ったのか)
「……一体、この世界は何なのだろうな」
仁和は空に優雅に泳いでいる神獣を見上げながら思った。
(仁和君、そろそろ行かないと終わっちゃうよ)
心の中で歩夢に話しかけられ、神獣から目を逸らす。
「確か、温泉だったか」
最近、歩夢は仕事から解放され今日は温泉に入って体を休めると言ってた事を思い出す。
(そうそう。ここの温泉は疲れが取れるから仁和君も入ってみなよ)
「いや、俺は」
顔の火傷を思い出し口を濁す。
(大丈夫! 貸切にしたから)
彼の言葉に俺は眉を開かせた。
「俺の為に、貸切にしてくれたのか?」
(うん!)
「はは、ありがとう。なら入らせてもらうよ」
仁和はそう言うと路地裏を出た。
皇樹は時計を見てため息を吐いた。時計の短い針は九を過ぎている。それでも起きない主を見兼ねて皇樹は文都の部屋の側まで来るが立ち止まった。皇樹の目の前には文都の姿があったからだ。見慣れてしまった乱れた着方はしておらず、yシャツはズボンに入れられ髪も整えている。白いコートを羽織っている姿は昔の文都を思わせた。
「胤冴、少し起きるのが遅くなった」
(……戻ってる)
皇樹は文都の黒く染まっていた魂が綺麗なオレンジ色に戻ってるのを確認する。文都は魂が黒くなったのと同時期に複数人の女性と関係を持つ様になった。それから二十年間、魂の色が変わる事は無かった。
皇樹は昔の彼に戻っている事に嬉しいのに泣きそうな感覚に襲われる。だが、彼の体は人間ではないので涙は出る事はなかった。
「どうした?」
「いえ。おはよう、ございます」
その言葉に彼は目を見開いて驚いた表情を見せたが、すぐに優しく微笑む。
「ああ、おはよう。捜索の方はどうだ?」
「最近はパナウランス国周辺を調べていましたが手がかりは見つけられませんでした」
「そうか。なら、次は藤伽に行こう」
「承知しました、すぐ準備致します」
皇樹は目尻を下げ、返事を返した。




