『神獣』
宇僚は魔獣が見える所まで来ると魔獣討伐へ行った人々が地面へと倒れているのが見えた。その中の一人に物の大きさを自在に変化させる能力、拡縮能力を持つ少女が見え宇僚は少女の魂に触れる。
「悪りぃ、少し借りるぞ」
「宇僚、君」
次に沙優希に話しかけ、彼女から刀を取ると風魔法を纏わせた。その状態で少女の能力を発動させる。宇僚は空を見上げ、神獣を捉えると空中で全身を捻らせ上空に向けて全撃を放った。斬撃は上空へといく。比例して全撃が大きくなっていき風を切る音が大きく響き渡る。一直線に突き進んだ斬撃はやがて神獣へとぶつかると傷を残した。
「ガァア゛ア゛ァ」
神獣はそれに対し大きな断末魔を響き渡らせる。宇僚は愛京と仁和から距離を取る様に走り出すと注目能力を発動し自分に注意を向けさせる。流石に距離があるので注目能力の上に拡縮能力を付与してみると効果があった様で神獣は宇僚に視線を向けた。
神獣は声を上げると目の前に大きな魔法陣を作り出す。そこから闇魔法と炎魔法が融合された魔法が放たれた。広範囲に及ぶ魔法、宇僚は水魔法を氷魔法へと変化させると相殺する。
「ッ、」
しかし、あまりにも大きい魔法に拡縮能力でも対応できず熱風が宇僚を包んだ。
「あんなももんを何発も撃たれたら堪ったもんじゃ」
彼は煙で視界が奪われ目を細めていると目の前に神獣の姿が見え、絶句する。
重い体をものともせず凄まじい速さでこちらへ迫ってくるのが見え、宇僚は開かれた鋭い牙の餌食にならない様、持っている剣で何とか対抗するが。
「ック」
腕に重い衝撃が伸し掛かり体ごと後ろへ吹き飛ばされた。宇僚は森を突き抜け、紫色をした水面へと転がりと岩に激突する。早さの持ったまま打ち付けられた体に宇僚は顔を歪めると瞳から光を消した。
自身の額から血が流れる。無数の傷を不死の能力で再生していくと宇僚は瞼をピクリと動き半目だった目を開く。時間を経たずして立ち上がった彼は乱れた髪と服を気に求めず俯いたまま肩を上下に上げる。
「クククッ、……ッハハ、ハハハハッ」
彼は乾いた声で笑っていると真上に神獣が現れる。笑いを止めた宇僚は神獣に目を止めると目を細め睨みつける。神獣は宇僚の様子に気付く事はなく自身と似た魔獣を二体作り出した。
「魔獣が能力を使いこなすか」
宇僚はどこかぼんやりとした声で言うと剣を持っていない方の手を迫り来る二体の魔獣に向け力ませ、光魔法を発動させる。魔獣を光魔法に封じ込めると重い剣を適当に振い、風魔法の斬撃を飛ばし切り刻む。切り刻まれた魔獣は粒子となって消えるのを見ながら宇僚は天空に佇む本体に視線を向けた。宇僚と目があった神獣はまるで拘束されているかの様に動きを止める。
「次はどんなもんを見せてくれんだ」
宇僚は目を見開き、口角を上げ、問う。狂気に染まった笑みで高々と嗤う彼に神獣は知能が低いながらも彼の放つ異様な気配を感じ取った。
神獣は恐怖を感じて翼を広げると彼に背を向ける。宇僚はそれに驚いた表情をした後、つまらなそうに口角を下げた。
「そうか、それがお前の答えか」
宇僚は高みにいるそれに告げると巨大な風魔法が神獣に向かって上空を突き抜けた。
「残念だ」
彼は探索能力で二人の場所を把握すると、ふらりと体を揺らし歩き始める。二人の元へ辿り着くと愛京よりも早く気付いた仁和は彼の雰囲気に警戒を始めた。次に気付いた愛京は宇僚の姿に無我夢中で駆け寄る。
「あなた、大丈夫? その血」
「俺は大丈夫だ、それよりあの剣なんだけどよ」
愛京は宇僚の言葉に彼の手元を見るが剣を持っていないのに気付く。
「無くしちまって。けど、もう魔獣はいねぇから必要ねぇだろ?」
彼はそう言って優しげな微笑みを浮かべる。愛京はその言葉の意味を理解すると疲労感を纏ったまま笑った。
「ありがとう、宇僚君」
彼女は言うとふらっと力が抜けるように倒れかける。それを宇僚が片手で引き寄せ阻止し「大丈夫か?」と声を掛けた。しかし、返事はない。宇僚は顔を近づけ様子を見ると彼女は我に返ったようで目があった。彼女は驚いたような顔を見せたがすぐに頬を赤らめる。
「あ、ありがとう」
宇僚の服をギュッと掴み、照れる愛京。普段の宇僚なら愛おしく思のだろう。しかし、今の彼にそんな余裕はなかった。
「なら離れてくれ」
「え?」
宇僚は彼女を支えていた手を離すと喉まで込み上げてきたモノを地面へと吐き出した。
「オェェッ」
「ちょ、ちょっと、宇僚君!? 大丈夫?」
「体調不良の中あんな動き回って大丈夫な訳ねぇだろ。死ぬ」
宇僚のいつも通りの様子に仁和は警戒を解くと二人を眺める。
「待ってて。今、九条君連れてくるから」
「ッ! いい、あいつとは関わりたくねぇ」
「文句言わないの」
「いやだ」
眉間に皺を寄せ訴える彼に愛京は冷酷な笑みを浮かべる。
「なら。私の手刀で眠るのと、九条君の光魔法で症状を軽くするのどちらがいいかしら」
その言葉に宇僚は愛京の手刀によって首が吹き飛ぶのを想像し顔色の悪い顔を更に青くさせる。
「……九条」
彼はポツリと呟くと愛京は仁和に視線を向けた。
「仁和君、九条君を連れてくるから宇僚君見てて」
「分かった」
彼女はその場を後にする。こうして魔獣退治は無事終わりを迎えた。




