武富さんの訪問
投稿遅れてすみません。
夏休みなら更新増やせると思っていたのですが、心身共に怠けてしまいました。
……ずっと寝てたい(切望)。
「――はいっカットォ! 今日の撮影終わりでーす!」
今日の分の撮影を全て終わるとスタッフたちはせっせこと片付けに動く。
そんな中僕はやっと終わったという気持ちで肩の荷を下ろして、撮影場所であった教室から廊下に出る。
用もないのに教室に留まっていては、スタッフさんたちの片付けを邪魔してしまうからな。
演者である僕にこれ以上することは無い。
挨拶してから上がるとしよう。
……そういえば、武富さん結局来なかった。
今回の仕事持ってきてから少し見直したのだが、人間の根本的な本質はそう簡単になおりはしないようだ。
彼女の無断欠勤に呆れながらも廊下で一息ついていると、
「お疲れ、アオトくん」
「猪瀬さん、お疲れ様です。すいません、今日はフォローしてもらいっぱなしで」
今日の撮影、ミスを連発してしまい共演者の人にたくさんカバーしてもらう結果となった。
特に2人で出る場面が多かった猪瀬さんには多大な苦労をかけたことだろう。
やはり一言謝っておかずにはいられない。
「いいよいいよ。初めての撮影なんだからしょうがないさ」
しかし猪瀬さんは負担を全く感じていないように振る舞い、快く許してくれる。
一緒にやってくれる人がこんなにも懐が深いと頼る側の僕としてはとてもやりやすい。
「なんか演技で行き詰まることがあったらいつでも言ってね。俺も一応先輩だからさ」
「あっ、ありがとうございます」
一言そう伝え、猪瀬さんは手を振りその場を去る。
きっと次の仕事に向かったのだろう。
なんせ有名俳優だからな。スケジュール帳は黒ペンだらけなのだろう。空白だらけの僕とは違って。
そんな予定のない僕はこれから家に帰り明日の休日に備える。
監督さんとスタッフさんらに一言挨拶を交わしてから僕は現場を後にする。
◆
「ただいまー」
若干の疲労を体に宿しながら、僕は玄関の扉を開ける。
「あ、おかえり、アオ君」
帰宅するやいなやリビングの方に向かうと、食卓ではコーヒ片手に悠々自適にくつろいでいる武富さんの姿があった。
「お兄ちゃん、手洗った?」
「あー、ごめんごめん。今洗う」
キッチンで皿洗いをしている梓の指摘を受けて僕はUターンし、洗面所へと向かう。
なんだか最近、梓の行動が母親に近くなってきたな。
あくまで近づいているのは一般の母親にだけど。
うちの母さんは働きに出てて家事はからっきしなため、その点では梓は母さんよりも母親やってるかもしれないな。
兄貴としての威厳もある手前、あんまり梓に頼りきりになる訳には――。
――……ん?
手を洗っていると、日常に紛れたある異変に今更ながら気がつく。
それに気づいた僕は手洗いを放棄してリビングに駆け出し、食卓にいる人物を見る。
「ん? どうしたのアオ君?」
コーヒーカップを置いて僕が前にコンビニで買ったファッション雑誌を読んでいる武富さん。
「いや、何故いるッ!?」
あまりに日常の風景に溶け込んでいたので気づかなかった。
僕も1回スルーしちゃったし。
――ってかなんでいる!?
現場には来なかったのに何故僕の家にいるんだ!?
「お兄ちゃん、ちゃんとうがいもした?」
「ああ、ごめん。――じゃなくて! なんで武富さんがいるの!?」
あまりに自然な叱責に思わず普通に返事をしてしまったが、今はうがいよりも大事なことが目の前にある。
「なんでって、遊びに来たんだよ。ダメ?」
「ダメです! 百歩譲って遊びに来るのは良くても、せめて仕事の現場にはちゃんと来てください!」
「起きたらもう待ち合わせ時刻すぎてたんだからしょうがないじゃん」
「しょうがないわけないでしょ! 遅刻が確定してもせめて来てくださいよ!」
「えー」
「えー、じゃない!!」
サボり癖の着いた中学生かよこの人は。
うちに来て悠々自適にコーヒー飲んでる余裕があるなら現場に来てくれよ。
「あっ、言い忘れてたけどアオ君の妹ちゃん。昼ごはん美味しかったよ」
昼飯まで食ってたのかよコイツ!!
梓は律儀に「どういたしまして」と返してるし。
――流石の僕も武富さんの行動には堪忍袋の緒が切れそうだ。
けどここで怒ったって武富さんが仕事態度を改めてくれることなんてない。
この人の性格は一旦人格をリセットしない限り治りはしないだろう。
怒り損になるため堪忍袋の緒は繋げたままにしといた。
「いやぁ、にしてもいい妹ちゃんだね~。しっかりしてるし可愛いしオマケに料理も美味しい。こりゃあアオ君もシスコンになるわけだわ」
ファッション雑誌を閉じて武富さんはしみじみと言う。
彼女の意見には同意だが、決して僕はシスコンでは無い。
決して、だ。
「それで? 武富さんはいつ帰るんですか」
「おいおい、来てまだ2時間もたってないんだぞ。もうちょっと長居させてくれよ」
「そうだよ。いつも仕事でお世話になってるんでしょ」
「いやそれは無い」
僕はキッパリ梓の言葉を否定する。
お世話になった記憶なんてほとんどない。むしろ彼女のお世話をしていると言った方が正しい。
一体僕が何度武富さんの遅刻のことで頭を下げたことか。
「何言ってるんだよアオ君。私がどれだけ君のことで手を焼いて――」
「へー、どんな事でですか」
「……――まあ、それはいいとして」
都合が悪くなり話を逸らした。
遅刻癖だけじゃなく逃げ癖までついているのか。
「せっかく美人なマネージャーさんが来てあげたんだからもてなしたまえ」
お邪魔してる分際で偉そうだなオイ。しかも自分で美人とか言ってるし。
「そうそう、私もお兄ちゃんの仕事のこととか気になるし」
食器洗いを終えて濡れた手をタオルで拭いながら、梓は武富さんの肩を持つ。
「……梓がそう言うなら」
「やーいやーい、シスコン王子ー」
「追い出しますよ、マジで」
武富さんの冷やかしに対し苛立ちで返す。
僕が1番嫌がることをしてくるなこの人は。
――武富さんとこれから上手くやっていけるか、今日のことで少し不安になった。
武富さんは夕飯まで居座りました。




