妹と作戦会議
「それマジ!? 美絵と美恋が、ふたりとも同じ大学!?」
あのあと俺は大学構内にいるだけでもストレスマッハで、ついアパートに逃げ帰ってしまった。新歓行事など知るか。自分の身のほうがカワイイわ。
当然ながら俺がいないことに気づいた梨桜から半分怒りの連絡が入るのだが、『トラウマが再発しました。もぅマヂ無理。おうちかえる』とレスしたら、梨桜があわてて帰ってきた。
「こんなん冗談で言えるわけない」
「えぇ……なにあの二人、よくもまあのこのこと……」
トラウマが再発して激情に駆られるより先に逃げだした情けない俺。代わりに梨桜が怒ってくれている。さすが我が妹、惚れそう。
「というかだな。何か裏がありそうで怖いんだけど」
「裏? ああ……浮気発覚のときに制裁したもんね、お兄ちゃん」
「うむり。だから、その件で恨みを買ってるんじゃないかと」
「まあ、制裁のせいで美絵も美恋も友人ことごとくなくしたからなあ……」
兄妹そろって遠い目になる。
いくら腹に据えかねたと言えど、ちーとばかりやりすぎた感があったのは事実だ。
あ、なる。
つまり友人を失くして勉強するくらいしかすることなかったから、美絵も美恋もこの大学に合格できるくらい成績上がったわけか。少なくとも昔は中の下くらいだったのに。
…………
なんてこった。人を呪わば穴二つ、とはこのことか。あいつらは二つとも汚い穴所持だけどな! 知らんけど。
俺は結局。
あの成績のままなら、おそらくまともなところに就職できずフリーターとして過ごし、挙句の果てにろくでもない男に引っかかってDVとか受けながらつらい人生を送る未来しか見えなかった二人に。
四年制大学卒業という勝ち組的な学歴をプレゼントしただけじゃないか!
…………
『先輩に制裁されて友達失くしたので勉強に身が入り、おかげさまで大学合格できました! ありがとうございます!』
…………
うん、こんな礼をされるわけはない。考えすぎだ。
「なんだかボクも納得いかないし、ちょっと二人と話をしてみることにするよ」
「……大丈夫か、梨桜?」
「大丈夫だよ。だいいち、”速水亮平”の妹に手を出そうとするなんて無謀だって、あの二人もわかってるでしょ」
「……」
「男に対する強さの十分の一でも、女に対して発揮できればよかったんだけどね、お兄ちゃんは」
「うっさい」
「ふふっ。まあ、そんなお兄ちゃんだから……」
梨桜に微笑みかけられ、俺は照れを隠せず、ぶっきらぼうに話を遮った。
「とにかくだ。まあできればあまり喧嘩腰にならずに、できることなら平和的な会話をお願いしたい」
「それは無理だよ。お兄ちゃんを傷つけた相手にかける容赦も情けもボクにはないから」
「それでもだ。なんとなくだけど……」
できることならもう顔を見たくなかったんだよね。
ただでさえなじめずにいた、つまらなかった大学生活が、さらに憂鬱になりそうな予感しかしないんだよなあ。
梨桜の好意を無下にするわけにはいかないから言わないけどさ。
できることなら、一万人近くいる大学キャンパス内で。
そうそう関わり合いになることがないように祈りたい。
そんな思いを込め、俺は梨桜を見つめる。真剣に。
梨桜は俺の気持ちをわかってくれたのか、少しだけ頬を染めながらも。
「しかた、ないなあ。それがお兄ちゃんの望みなら」
そう答えてくれた。