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再会したくなかった・その弐

「はぁ、はぁ……」


 無我夢中で駆け出し、思わず法経学部校舎裏まで逃げてきてしまった。

 入学式後の喧騒が嘘のように人がいない。


「なんで、よりによってなんで美絵が……」


 独りごちて、建物に手をつきながら、息と思考を整えることにしよう。

 なんなんだあの鯖の生き腐れ美絵(ビッチ)

 俺とつきあっておきながら、他のイケメンにも股を開いていたヤリマン女。それがバレたあげくに『遊びだったの、許して』と懇願してきやがった腐れ脳の女。

 もうその時点で、美絵のあだ名など『チ〇コ大好き珍子ちゃん』確定だっつの。


 あああもう本当に腹立つなああああああ!!!!!!


 じだんだじだんだ。

 その場で足元を踏み固める作業にいそしみながら、女性不信の始まりの根源を罵倒する。簡単なお仕事です。


 本当になんでだろうな、浮気がバレた女が必ずと言っていいほど言う『違うの』ってセリフ。違わねえだろ。


 ──ああそうか、違うってのは浮気じゃなくて本気だってことか。そういや、俺はそんな解釈をして美絵と別れたんだっけ。どのみち美絵に言い訳させるつもりなどなかったけどな。そのくらいあの時の俺は打ちのめされたから。


 もしも、梨桜が慰めてくれなかったら、俺は立ち直ることなどできなかったかもしれない。だが哀しいかな、梨桜は妹なので、レゴブロックだのUSBケーブルだのみたいな関係にはなれないのである。

 ま、それでも、もう一度だけ女ってやつを信じてみようという気にはなった。


 …………


 なったんだが。

 この後もう一度お約束のようにね……


 ああ、やめやめ。俺はもう女というものに期待することはやめたんだ。梨桜以外で。

 血縁はいいぞ。血の繋がりってのは、裏切る裏切らないなんていう次元を超越しているわけだからな。

 選べばシスコン兄まっしぐら。いまなら妹が十二人いてもそこはパラダイスに感じられるだろう。さあキミは妹になんて呼ばれたい? にぃにか、兄者か、ダーリンか。


 …………


 うん、バカな思考回路再生のおかげで少しだけ冷静になった。

 先ほど踏み鳴らした地面を少しだけ靴でなぞり、俺は校舎の裏から出た。


 しかーし。


「……亮平、さん」


 突然、下の名前を女子らしき声で呼ばれて、思わず振り向いてしまう。

 少なくとも、大学内で俺のことを下の名前で呼ぶくらい仲のいい女子などいない。


 振り向かなきゃよかったのに。

 まさかここで二度目の運命のいたずらを食らう羽目になるとは、梅雨(つゆ)ほどにも思わなかった。いや錯乱するな俺、まだ四月だぞ。


「お久しぶりです、美恋みれん、です……会いたかった。もう一度、会いたかった……」


 そこにいたのは──髪の色は明るくなり、少しだけケバいメイクをしてはいたが──間違いなく美絵と別れてから付き合った過去の彼女、鮎川美恋(あゆかわみれん)であった。

 俺と付き合っておきながら、過去の彼氏を忘れられず、結局別れた彼女。

 結果として俺のトラウマを増幅させやがった、クソ女。


 そのとき、俺はムンクの叫びのような表情をしていたに違いない。

 過去の悪夢が立て続けに甦ってきた。もう踊ってごまかすしかない。フラッシュバックダンス。ホワラフィーリングとかさけびたくなるっての。


 額に流れる脂汗。拭うより早く、俺はそこから逃げ出した。


「……あっ! ま、待ってください! 話を……」


 逃げる阿呆に待つ阿呆。同じ阿呆なら逃げなきゃ損だわ。今の俺にはペヤングを待つ三分間ですら惜しい。





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