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妹と二人暮らし開始

「というわけで、ふつつかな妹ですが、数年ほどよろしくお願いします」


 一つ下の妹が、俺と同じ万葉大学に合格した。

 それゆえに、四月からひとり暮らしをしていた俺のところに、一緒に住むこととなり、今日は下見に我がアパートまでわざわざやってきたのだが。

 そう言って俺の部屋で深々と頭を下げる妹に対する兄の対応は塩である。


「なんで兄妹で一緒に住まなきゃならんのだ」

「えー、別にいいじゃん。あれだけ部屋広いんだしー、ボク一人くらい転がり込んでも問題ないでしょ?」

「いろいろ問題あるだろ」

「なんで? カノジョでもできたの?」

「……」


 この妹は痛いところをビシビシえぐってくるわ。

 俺が顔をゆがめたのを確認し。


「……ごめん」


 謝罪してきた。


「そうだよね……二回も裏切られたら、さすがに女性不信にもなるよね。でも、妹は別だよね、お兄ちゃん?」

「……当たり前だ」

「そ、ならよかった」


 まあ、二回も裏切られた件を妹が知らないわけがない。なんせその二人ともが、妹の同級生だったんだからな。


「でもさ……お兄ちゃん、一生彼女作らないつもりなの?」

「先のことなど知るか。今は無理、ってことが明らかなだけだ」


 吐き捨てる口調でそういう俺の顔は、おそらく醜い。

 だが、妹はそんなことを気にせず、俺に寄り添ってくれた。


「しょうがないなあ。じゃあ、お兄ちゃんが彼女を作りたくなるように、ボクがそれまでそばで慰めてあげるよ」


 妹の、梨桜りお。こんな兄にも優しい、自慢の妹。


「おまえの彼氏はいいのか」

「んー、ボクは彼氏とか必要ないかな。少なくとも今は」

「モテないはずはないんだがな、おまえが」


 そう言ってからはっとした。

 兄としての欲目を抜いたとしても、梨桜は間違いなくかわいい部類に入るはず。

 しかし、こいつが彼氏とかを連れてきたところを俺は今まで見たことがない。それも当然だろう、初めての彼氏候補にゴーカンされそうになってしまったら。

 ま、未遂で済んだんだが、それでも心の傷は深かろう。


「ん、そうだね。そのうち彼氏が欲しくなったら、髪を伸ばすから」

「なんだそれ」

「だから、ボクの髪が短いうちは、お兄ちゃんは何の心配もしなくていいってこと」


 それでも、まるで気にしてないような言葉づかいで、理解が追いつかない言いくるめられ方をして、俺は思わず苦笑い。


 高校時代に、俺を裏切った二人の女がいる。

 それを引きずって、俺はイマイチ大学生活になじめずいたが。


「……しゃーないな、妹の面倒を見るのも兄の役目だ」


 仕方ねえな、という気持ちも込め俺が言った言葉を受け、笑顔を開かせる妹を見て。

 ひとりじゃなければ、いつかは俺も笑顔で楽しい大学生活を送れるかもしれない。

 裏切られた兄妹でな。


 この時はそんなふうに思えたんだ、心から。


 だが。

 そんな希望すらも、運命というものは木っ端みじんにしてきやがるのである。


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