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ディギディギ  作者: ケト
4/4

結果

 急いで帰ったところで結果が早く来るわけではない。

 それはわかっていたが、銀汰はいつもより早足で自宅へと帰った。


 リビングで昨年の結果を見ながらそわそわしていると、父が帰宅した。

「お父さんおかえり。いつもより早かったんじゃない?」

「ああ、お前の結果、今日通知だろ?立ち会わないといけないからな」


 そう、能力評価テストの結果は、十九歳以上の立会者が必要となるのだ。

「別に、お母さんでも良いんじゃないの?」

「そりゃそうだけど、良いじゃないか。だって、ワタシだって気になるんだから」


 自分のことをワタシと呼ぶこの父親。

 職業は科学者。実は、能力評価テストを提唱したグループの一員であった。だからといって、銀汰はモニターとして使われることも、何か特別扱いされることも無かったのだが。

 むしろ、結果を良くする秘訣を教えてほしいと思っているくらいだ。


「夕飯が出来ましたよ」

 母の知らせと同時に、十九時を迎えたのであった。



「どれ、銀汰。パパっと見て夕飯にしようか」

「ああ、そうですね。どうせまた昭和の運動会で活躍できそうだな、で終わるんだろうしね」 


 父は、市役所から各家庭に配布されているタブレット端末を操作すると、お知らせ画面を表示した。

 十九時ちょうどに、検査機関から『能力評価の結果』が通知されていた。


「よし、開くぞ」


 一応断ってくれた父に頷いて返すと、父は結果をタップした。

 結果通知の初期画面は、全事項でのベスト一〇が表示されている。

 この画面で、去年まではいつも『大玉転がし』が一番上に表示されていたのだが・・・


「あれ?なんか、知らない名前が一番上にあるね・・・」

「そうだな・・・で、でぃ、ディギディギ、か?」


 急に現れた謎の名前に、銀汰と父は顔を見合わせた。

「何だろう、スポーツかな?」

「どうだろうか。でも、知らないということはメジャーなものではないことは確かだな。しかし、昨年圏外だったものが急に出てくるなんて・・・」


 父は自分の端末を操作し始めた。ディギディギとは何かを調べてくれるのだろう。

「ギョギョってみるぞ」

 そう言うと、検索サイトのGYOGYOLにディギディギと入力した。

 普段口にしないし、もちろん入力もしない単語なので、父は少し苦戦していた。


「おお、出てきたぞ。なになに・・・」



 ディギディギとは、ディギール王国発祥のスポーツである。2029年4月に正式にスポーツとして認定された。

 ディギール王国では国技とされており、小学校の体育の授業でも行われ、日々、全国民がその技術を研鑽、競い合っているという。

 ディギディギは9対9で対決する球技である。攻めと守りを3回ずつ行い、得点を競う。 

 1回あたりの攻めと守りの人数を選べるのが、このスポーツの最大の特徴と言えよう。もちろん、一度出場した選手はその試合ではもう出場ができない。

 一般的なのは3人ずつとした『3・3・3』であるが、昔からの主流は『3・2・4』だ。

 極端に『1・1・7』とするチームもある。1人で攻めても点が入らないし、1人では守りきれないため、1回と2回で多くの得点を奪われるが、最終回で7人で挽回、そして守りきるというやり方である。

 だが、7人いるからといって得点を多く入れることができないのが、ディギディギである。そう、どちらかというと守りが重要なのだ。

 そして、現在のディギラーの中で英雄扱いされている人物。ディギール王国の第一王子は、たった1人で4人の攻めを防いだことがあるプレイヤーだった。

 だが、王子はこう言っている。

『もしかすると攻め特化と呼ばれる時代がいつか訪れるかもしれない』

 そう、これまで攻めの英雄が現れたことが無いのだ。



「全然わからないね。とりあえず球技ってことはわかったけど・・・今度はディギール王国ってなに?どこにあるの?」

 

 謎は深まるばかりであった。

 だが、1番上に表示されているその点数、

『978点』

 これまで見たことも聞いたこともないほど高いということだけは、銀汰にもわかっていた。 





ー WTNB報告書No.2027―8 ー


 2027年、システムが完成し、全国の満12歳から18歳までの被験者、各年代20名ずつ、合計140名によるシステムの試行を実施した。

 被験者は、何らかの分野で秀でた成績を残した実績のあるものを上位者として5名、逆に、苦手な分野を持ち極端にその成績が悪いとされるものを下位者として5名。そしてその他10名をランダムに抽出した。

 いずれも、順位や成績、記録による抽出であり、その分野の能力を数値化したものではない。

 そしてこのシステムの目的が、これらの被験者のあらゆる分野に対する適合性、つまり向き不向きを数値化するものであった。

 被験者の様々な動作、ここでは、基本的な動作、例えば指を動かす、膝の曲げ伸ばしなどから、走る跳ぶ投げるなど応用的な動作など、あらゆる動作をデータ化する。


 これらのデータを、あらかじめデータ化していた模範となるものと比較し、その全ての動作を1000点満点で評価する。

 そして、それらの数値化した動作を、あらかじめデータ化していたものをベースに構築した、あらゆる分野における種目、例えば野球やサッカー、陸上といったスポーツ分野から、ピアノやバイオリン、声楽などの音楽分野、その他、Eスポーツやダンス、芸能分野などの評価システムに反映させる。

 すると、全ての種目に対して、1000点満点で数値化されるのだ。

 数値が高いほど、その種目への適応性が高いことを表す。当然であるが、特にスポーツにいたっては、体型、特に筋力の大小によりその記録が上下するものが多いだろう。

 そのため、評価の対象年齢を、体型が比較的安定し始める満12歳を下限とし、体型の変化がほとんど無くなると考えられる満18歳を上限に設定したのである。


 この試行は、良くも悪くも、あらゆる分野において興味のある結果をもたらした。

 良い結果とすれば、上位者の評価において、比較的高い数値を記録したものと、その上位者の得意な分野がほとんど一致したこと。

 また、全ての被験者の評価における上位3位までの分野を試行したところ、中には初めての経験となったものもいる中で、いずれも好成績をおさめたのであった。


 この結果は、システムが記録した数値と適用性との互換性の高さを示したと言える。

 また、評価対象とする分野、種目は、古今東西あらゆるものを登録していた。メジャーなものからマイナーなもの、誰も知らないようなマニアックなものまで登録したのだ。

 被験者の中にも、個人の1位となった種目が、全く聞いたことのないような種目だったものも多くいた。だが、もしもこの評価をきっかけにその種目を知り、そして実践することになれば、種目を行う人口が増えるとともに、そのレベルが上がることは必至と言える。

 その点で、あらゆる分野からも期待されるようなシステムであえうと言えよう。

 一方で、その登録数がデメリットとなることもあった。先ほど、上位に入る種目が全く聞いたことの無いものが多かった、と言ったが、上位のほとんどが全くわからないものだという被験者も多かったのだ。

 中には、『テーブルクロス引き』や『ペン回し』など、例え評価点が高くても、その道を究めようとは思えないものも多かったのだ。

 だが、この試行をするまで、自分には何の取り柄も無いと思っていた被験者が、今まで聞いたことがないような種目であれ、適用性の高いものが見つかったことへの喜びの感情も観られたことから、一概に悪いこととは言えないのだ。

 ただし、今後、全国規模にこのシステムを適用させた場合、同様の苦情が寄せられる可能性が示唆されたため、評価結果を確認できる画面の『検索機能』を強化させることとした。


 スポーツ、音楽、技能などの分野に分けることはもちろん、種目の競技人口、実施人口によりメジャーかマイナーかを分けることができる仕様とした。



 その試行結果は日本政府にも認められ、従来のスポーツテストに代わるものとされた。

 そして2040年の4月から、そのシステムは満12歳から18歳までの全国民を対象に義務化され、その対象者の『誕生日』に、所定の施設にて実施されることとなった。

 誕生日すなわち実施日は、通学等の義務が免除され、いかなる予定があっても、試験が優先されることになった。

 その施設は全国で10箇所設けられ、その施設までの交通費は全て国が負担する。施設への移動距離、時間を要する対象者は、実施日前日も義務が免除され、前日及び当日の宿泊費用も負担されることになった。


 動作分析評価システムと仮称されていたそのシステムは、

『能力評価テスト』

 と証され、以後、対象者の一大行事として浸透していったのである。

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