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ディギディギ  作者: ケト
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結果通知の日

 六月十五日。

 今日は能力評価テストの結果が届く日だった。とは言え、結果は午後七時に届くため、銀汰はいつもどおり学校に登校していた。

 テストは被験者の誕生日に実施されるため、つまりは一年中行われている。

 そのため、クラスの誰かの結果がわかると、その日はその話で持ちきりになるのだ。

 もちろん、結果、あるいは人によるが。

 

 そして銀汰は、残念ながら話題に上がらない部類に属していた。

 決して、結果を話し合うような友達がいないとかいうわけではない。

 しかも、今年はあのディギっちが、『結果がわかったら話そうね』などと言ってくれているのだ。

 でも、それでも話題にならないのは、銀汰の結果が何の面白みの無いものだったからだった。


 過去二回、銀汰の上位ベスト一〇は、ほぼ固定されていた。

 成長により結果が変わるとも言われているが、中学校に入って、銀汰の身長はほとんど変わっていないためか、その能力も何の変化も見られなかった。

 そして、千点満点のその結果だが、一位が六百二十点と、なんとも冴えない結果なのである。

 しかも、その一位が『大玉転がし』という、喜んでいいのかわからないものだったのだ。

 結果の通知に立ち会ってくれた父に聞くと、父の子供の頃の『運動会』でそんな競技があったらしい。

 

 能力評価テストの重要性は政府も認めており、従来のスポーツテストに成り代わったものである。

 でも、一部で評判が悪いのは、評価対象が多すぎる、そしてマニアックすぎるものも多すぎる、という点だった。


 『大玉転がし』もそうだが、銀汰の第二位『玉入れ』、第三位『綱引き』、いずれも昔の人にしかわからないものだった。

 父は『お前、昭和の小学生だったら運動会でヒーローになれたんじゃないか?』

 と言ってくれたが、今は役に立たないのだから、全く嬉しくなかった。

 

 それでも、この結果通知は検索機能が充実しており、その分野の知名度、プロの有無などで結果にフィルターをかけることができた。

 だが、銀汰がそれを使ったところ、なんと一番上に来たのが『野球のノック』だったのだが、点数は四百四十点と、平均を下回るという、なんとも残念なものだった。

 だから、銀汰にとって、結果通知の日はあまり特別なものでは無かったのだ。


 そんな中、昨日の夜に通知が来たというクラスメイトの声が聞こえてきた。


「去年無かったんだけど、なんか、『サッカーのリフティング』が780点だったんだ。でも、これってすごいの?」

 出た!

 これってすごいの?って聞くヤツ。


 よくアプリゲームのガチャで、最高レアの、そして最強格のキャラを当てたにも関わらずよくわかっていなくて、

『なんか試しに一回やってみたら出たんだけどこれってすごいの?』

 と言うヤツと一緒である。


 まして、取り柄の無い銀汰にとって、その言葉はただの嫌がらせでしかない。

 もちろん本人にはそんな気は無いことはわかっているのだが。


 て言うか、リフティング?サッカーそのものじゃないんかい。

 クラスメイトも、これに関しては何て言ったら良いか分かりかねているようだ。


 でも、点数はすごい、それは事実だった。

 この評価テストの点数は千点満点で、その分野での能力が高いほど、高い点数として表れるのだ。

 そしてその点数の目安が、試験ガイドブックに記載されていた。

 点数の目安は大きく六段階に分かれていた。


 まず低い方として、

『500点以下:平均以下』

 とされていた。

 つまり、本格的に取り組んだとしても、平均にも届かない、酷い言い方をすれば、やっても無駄、ということだ。

 もちろん、楽しい楽しくないは個人の感想なので、ガイドブックには

『あくまでも能力評価の点数を示したものであり、その取扱いは個人の自由です』

 と記載されていた。


 その他は、

『501~600点:平均、あるいはやや優れている』

『601点~700点:やや優れている、あるいはとても優れている』

『701点~800点:とても優れている、あるいは秀でた才能がある』

『801点~900点:秀でた才能がある、あるいはとても秀でた才能がある』

『901点以上:希に見る才能がある』

 だ。


 なんとなく抽象的な表現なので、この目安の評判も良くない。


 代わりに、公式では無いが、インターネット上では様々な目安がアップされていた。

 中でもわかりやすいのが、100m走に例えたものだった。

 男女ともにあるのだが、男子を見てみると、段階は先ほどと一緒で、

『500点以下:15秒00以上』

『501点~600点:15秒01~12秒00(学校のクラスの中では速い方)』

『601点~700点:12秒01~11秒00(都道府県大会出場~上位レベル)』

『701点~800点:11秒01~10秒50(全国大会出場~上位レベル)』

『801点~900点:10秒51~9秒85(日本国内トップレベル~世界トップレベル)』

『901点以上:9秒84以下(世界記録レベル)』。


 つまり、リフティング780点は、全国大会出場レベルなのだ。

 でも、全国大会あるんだっけ、リフティングって?


 優しいクラスメイト達は、皆スマートフォンを手に検索をしてあげているようだった。

 当の本人を見ると、すでに検索し尽くしたのだろう。

 わかりきった結果に何と答えようか、考えているような表情をしていたのだった。





ー WTNB報告書No.2025―7 ー

 2025年、我々の研究は頓挫した。

 第一の理由は、あらゆる体型、体質に順応させることが困難であることだった。

 骨の形成や筋肉のつきかた、視神経の働きなど、あらゆる組織の複合的作用により人間の動作がなされるが、その一つがずれるだけでもその個人の動作にはエラーが生じてしまうのだ。

 個人のあらゆる情報をデータ化し、開発を進めるスーツにインプットすることで、その個人の動きに対応可能となることは確認された。だが、インプットする情報のデータ量が、あまりにも膨大なのであった。

 人一人に一年近くもの歳月を要した。もしかすると、このデータ化作業を機械化すれば良いのかもしれないが、例え機械により処理速度が上がったところで、スーツを使用する全ての人に対してこの作業を実施するのは現実的で無かった。

 そして、動作の高度化も同様であった。さらに高度化において問題となったのは、自分に合った動作強度よりも高いものを選択した場合、体にかかる負担が過大になり、身体機能に影響を及ぼすことだった。

 これら問題があるが、例えば使用者を限定すれば、実用性を持たせることは可能であろう。ただし、やはり汎用性が無く、そのために要する費用に対する効果があまりにも小さかったのだ。

 スーツの開発は中止となった。だが、この研究の過程で得られた膨大な情報を生かした、新たな研究を開始した。

 それは、不特定多数の被験者の動作データと、あらゆる分野の第一任者の動作データを用いることで生まれるものだった。


 我々はそのシステムを動作分析評価システムと仮称した。

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