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戦国レストラン もののふ亭  作者: 篠崎優
一章:夏休み
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朝倉宗滴と『生姜焼き』

 一見、淡泊そうに見える白髪の老人が目を閉じて自分の料理を待っている。

 自分の料理を美味しく食べてくれるということは料理人として冥利に尽きるが、期待されすぎるのも少し恥ずかしいというものだ。


 そんなことを思いながら、豚肉が入っている小さめのフライパンに醤油、砂糖諸々が入っている特製タレを放り込む。

 フライパンが焼けたような「ジュ―――」という音が部屋に響き渡る。

 老人はその音に少し驚いたような素振りを見せるが、それを大して顔に出さない。

 凄いな。普通は驚くものだが。ずっと気を張っているのだろうか。疲れそうなものだが。


「お待たせいたしました。こちら、生姜焼き定食です」

「……これは、どこかに生姜を練りこんでいるという事でよいのか?」

「まあそんな所ですね」

 箸をとって豚肉を一つつまむ。

「美味いな」

 一言そう呟く。彼の名は朝倉宗滴あさくらそうてき。若き日の『うつけ』と呼ばれていた織田信長の才能をいち早く見抜き、戦国時代指折りの天才だ。


 しかし、ここに来るということは何かしらの悩みを持っているのでは無かろうか。

 宗滴の強さは私もよく知っている。

「例えば、この料理を毎日食ったとして長生きできると思うか?」

「どうでしょうか。少なくとも長生きはできないと思いますが」

「何故だ?」

「食べ物にはそれぞれの役割があります。例えば陣中食で握り飯を食べた経験はありますか?」

「当然」

「握り飯の中には頭がよく働くようになるものや体をよく動かすことができるようになるものが含まれています。これを栄養と言います。他にもいろいろな役割を持つ栄養があり、これを丁度よくとらないと体調が悪くなったり、病にかかったりしたりします」

「なるほど……」

「つまり、この料理はたまに食べるくらいが丁度よいのです」

「儂には時間が残されておらん。やはり、運命に背くには相当の努力と時間が必要なのだな」

 78歳で亡くなった宗滴が言うと皮肉じみて聞こえるのが面白い。


 しばらくに沈黙がその場を覆う。宗滴が残された最後の肉を頬張る。

 老人の割にはやはり大きく、力強い口だ。

「馳走だった」

「生姜焼きはお気に召しましたか?」

「もちろんだ」

 大きくうなずく。


 すると、一言。「これは私の人生観だが」と切り出す。

「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候」

 私が「どんな言葉でしょうか」と聞こうとすると、立ち上がって大きく声を張り上げる宗滴。


「大将は、武士は!犬と言われようと、畜生と言われようとも!勝てればそれでよいのだ!だからこそ、若人よ!地べたに這いつくばろうと、踏みつけられようと、決して諦めるな!負けるな!どれだけ遠回りの道でも必ず出口はある!どんな天才だろうと必ず道を歩いてきている!必ず自分なりの地べたに這いつくばっている!だからこそ、他人を妬むな、自分の道を生きろ」


 それを言い終わった後、ふとした時に宗滴はすでに消えていた。

 私の中ではさっき、宗滴が発した言葉が頭の中を駆け巡っていた。

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