夏休みを『楽しもう』
一章からは現実?のほうも本格的に進めるので基本的に日常回と店回の
比率を1:1か、1:2くらいにします。今回は導入回なので、少し短めです。
チャイムが鳴って、1日が終わる。生徒の顔の表面が一様に綻ぶ。しかし、その顔には汗がにじんでいる。
そう、今日から夏休みなのだ。皆が明るい顔なのも自明の理という話だろう。
「プールとか行かね?」
「そんな子供っぽいことやんねえよ、阿呆か」
「えー、いいじゃんかよ、行こうぜえ~」
家への帰り道、夏休みという行事に心躍らせながら、つい一時間前に渡された通知表の数字などとうに忘れている友達……速水一樹を横目に苦笑する。
「涼くん!」
後ろから快活で、明るい声が聞こえる。同じクラスの女子で、名前は金沢日菜だ。ポニーテールで髪をまとめて、眼鏡をかけている姿は少なくとも男子間ではかなり人気の的だ。
「あ、金沢さん」
「なに? プール行くんだって? それなら私も参加してみようかなあ」
「あー! でもお前プールは『子供っぽい、阿呆』って言って……」
「俺もプール好きなんだよねえ、行こうぜ、プール!何日にする?」
「えー、涼、ずっりぃ」
一樹も涼の横でぶー垂れていたが、結局夏休みの最後にこの3人+日菜が連れてくる数人でプールに行くことが決定したのだ。涼からすれば夏休みにクラスのマドンナとプールに行けるチャンス。
ハナからチャンスなんてないくらい分かっているが、それでも向かってしまうのが男なのだ。『当たって砕けろ』ってやつだ。……まあ砕けたらダメだが。
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「あーーーー!宿題が終わらねえよおおおお!!!」
涼は叫ぶ。嘆く。この世の理不尽を。不条理を。
「その言葉、机の前で言うならわかるけどテレビ見ながらいうことじゃないでしょ」
午後のワイドショーを見ながらこの世の不条理を嘆く涼に思わず突っ込む彩。
夏休みももう半分。エアコンをガンガンに効かせてテレビの前でポテチ食べながらいうことではない。
「いやいやあ……確かにテキスト類は八割方できたんだけどよ……あの、読書感想文と自由研究のテーマが全く思いつかないんだよな」
「読書感想文と自由研究って高校にもあるの? 読書感想文は適当な奴図書館で借りて来ればいいじゃん」
「いや、俺ラノベ専門だし」
「いいから借りてこい」
しばらくの沈黙の後、涼が得意げに話す。
「そうだ! 俺の家の家系図とか書いてみるか!」
山城家、運命の夏休み後半戦が始まる。