提案に乗ってみる5
「続きが読みたい……かぁ」
車を運転しながら夢の内容について考える。マイナーな作品が好きな俺は、楽しんでいた作品が未完や打ちきりに合う経験を人一倍してきている。
その度に自分で補完したエピローグをこっそり書いてみたりもしてきた。だけど、当然そのどれも原作を越えて「満足な最後」にはなり得なかった。続きを求める神様とやらの気持ちは分からないでもなかったし、むしろ自分が無意識下で望んでいたことを夢の中で代弁されたようにも感じる。自分の夢なのだから、自分から出た言葉に違いはないのだけれど。
だから、自分の発信で作品がキチンと完結するのならそれは喜ばしいことで、その手伝いができることなら是非やりたい。ただ、1ファンの発信でそれが叶うとも思えない。そもそも夢なんだからどんなにやりたいと思っても不可能なのだ。神様などはいないし、不思議なパワーを俺が持ってるわけでもないのだから。
あぁでも、できることならやってみたかった。あと5分アラームが鳴るのが遅ければ夢の中で体験できたのだろうか。俺は考えてもどうしようもないと知りながらも、気持ちが抑えられず考え続ける。何かそのものズバリではなくてもいい、方法はないものだろうか。
その時閃いた。
「依頼人の読みたい話を作るサービスはどうだ?」
あえて、口に出してそのアイディアの是非を自分に問いかける。
望んでいない人に作品やアイディアを届けるのはお節介だ。それは間違いない。だが、望んでいる人相手ならそれはどちらともが幸せになれるのではないだろうか。そして、その活動をしていたら、いつの日か作家の書けなかった物語を紡ぐ手伝いもできるかもしれない。幸い今の職場は副業を禁止されていないし、丑弌論咲の名で書き貯めた未発表のアイディアならいくつもある。土日が固定されて休みだという事も幸運だろう。土日限定のサービスということにすればいいのだから。考えれば考えるほど実行可能な状況が見えてくる。心の底からやる気がみなぎってくるのがわかった。
信号に捕まる度に殴り書きのように、いつも持ち歩いているネタ帳へ考えをまとめていく。
今週末からすぐに取りかかろう。
俺に依頼した人が物語を受け取って笑顔になる。その瞬間を想像するだけで、これからの勤務が苦に感じなくなるくらい気分が高揚した。