提案に乗ってみる4
「おい、なんか人間みたいなやつだな」
暇潰しを手伝えといったり、物語が読みたいといったり。神様ってもっと遠い存在かと思っていた。しかし、ヒメの説明だとまるで隣人のように身近に感じられる。神様が自分の辞書にある神様像と一致しない。
「……いろんな神様がいらっしゃいますから。もちろん、人間がそう意志が強くないことは神様もご存じです。絶対に成し遂げると心に誓っても、成し遂げられなかったケースは山ほどありますから。だからこそ。例え、絶対に未完にするんだ。と作者が決めた作品でも何かのきっかけで続きが書かれる可能性もゼロではないと思うのです。天啓という形でアイディアを送りつけることができれば……。その、天啓の部分を論咲に作って欲しいと思っているのです」
そう言って両手で俺を拝むようにしたヒメの肘が再び胸を押し強調させる。口許にあてた手の裏で鼻の下が伸びるのを感じた。
ピピピピピ……。
スマホのアラーム音で目が覚めた。今しがた見た夢に思わず乾いた笑いが出た。丑弌 論咲とはウェブ作家として名乗っている俺の名前だ。そのアイコンがピンクの無造作ヘアのイケメン姿。本名は鳴海 創。
つまり、夢の中で自分は「お前の作品を神様が望んでいる」と女の子に言わせたことになる。さらに言うなら、殿湯 ヒメは新作タイトルで使おうとしているヒロインそっくりだった。
「いっくら閲覧数が伸びないからって。神様に望まれているは、いき過ぎだろぉ」
そう声に出すことで、どこか他人事のように恥ずかしい気持ちを処理しようと試みた。でも、悪い気分じゃない。その夢の続きを見ようと目を閉じる。何か忘れているような気がするが……。まあいいかと意識を手放した。
5分後に再び鳴ったアラームのラベルを見て、今日が月曜日であることを思い出し、飛び起きた。
「あっぶね‼」
出勤しなくては。急いで身支度を整え通勤用の車に飛び乗った。