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提案に乗ってみる2

 鏡に写っていたのは、猫ッ毛のふんわりした薄ピンクの髪の毛。イケメンだけがそう形容することを許される無造作ヘヤー。細身の眉も髪と同じ色で切れ長の目に瞳が透き通ったブルー。桜の花弁を思わせるほんのり色付いた頬。不満げに薄い唇をへの字に結んだ左顎。その付近にホクロがあるイケメン。

 その隣に、ヒメが立っている。さらりとまっすぐな髪質の黒髪ボブ。薄い灰色の目はややつり目気味でそこを長いまつげが縁取っている。眉毛も細く上がり調子で、気の強さを目のまわりだけでこれでもかというくらい主張している。陶器のように滑らかな肌は健康的とギリギリ言えるぐらい白い。小ぶりで厚みのある唇が動いた。


「ご理解いただけましたか?」

 ご理解もなにも。現に今、鏡に3人写ってるでしょうと言いかけて言葉につまった。

「俺ってば幽霊?」

 鏡に自分の姿だけが写っていないのだ。

「あぁ、自己認識がちょっとズレてたんですね。大丈夫です。マスターがイケメン、イケメンと連呼するその体は間違いなくマスターのものです」

 そこでヒメがくすりと笑った。

「自己認識が順調に進んだ暁にはナルシストマスターとお呼びしますね?」

「……論咲と呼び捨ててくれ」

 自分と認識しているものが鏡に映らない以上、ヒメの言葉が正しいのだろうと感じた。

「ナルシスト論咲?」

 からかうようにヒメが言う。

「……ナルシストはのけてくれ」

 ヒメの言葉が正しいと仮定して自分の行いをふりかえる。途端に恥ずかしさの波が襲ってきて俺はようやくそれだけを言った。


「で、俺はこのなにもない世界で何をしたらいいんだ?」

 俺は、仕切り直すつもりで咳払いをした。

「神様の暇潰しに付き合っていただきます」

 まるで天気の話でもするように、それだけ言えばすべて分かるだろうとでも言いたげな調子でヒメが答えた。

「暇潰し?」

 問いかけた俺に、ヒメはゆっくりと頷く。

「暇潰しでございます」

「えっと。神様って暇なの?」

 何を聞けば求める答えがヒメから返ってくるのか分からない。

「まぁ、ものすごく沢山いますから。暇な神様がいてもおかしくはないでしょう?」

 さも当然といった表情で、ヒメが頷いた。ヒメにとって当然でもこっちにとっては当然じゃないんだよ。喉元まででかかった言葉を飲み込む。今はヒメ以外に質問できる人はいないんだ。なるべく穏便にいくべきだろう。

「それは体と精神? っての? それが分離してても問題なくできるもん?」

 ひとつずつ質問を重ねて、現状を把握していくことにする。

「できます。でも、体を動かしたいなら。自分の体だと意識すればできるはずですよ?」

 ヒメはやってみて下さいと促すように手のひらを上に向けてイケメン、もとい俺の体を指した。

 試しに右手を無造作ヘヤーに置きたいと意識する。すんなりとその右手が動いた。

 ワシャワシャと無造作ヘヤーをどんどん乱していく。どこまでやっても女性が黄色い悲鳴を上げそうな格好良さに腹が立ってくる。俺の体だと言われても、なにかが違う感覚がぬぐえなかった。

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