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第二十一話 カイトVS風の戦士

「糧になるのはお前の方、か……言うじゃないか!!」


 風使いが叫び、不可視の魔法が俺を襲う。

 それを感じ取った俺は素早くその場から飛び退き、直弾した魔法が地面に小規模のクレーターを穿つ様を横目に、木の陰に隠れた。


「どうしたのかな? 速攻で仕留めるんだろう? ほら、やってみなよ!!」


 そんなことを言いながら、風使いは俺が隠れた木陰へと配下のゴブリンを攻め込ませる。

 あくまで、自分は動かず後ろから、と。ラビットの言った通り、近接戦は苦手なタイプなのかもしれないな。


「なら、やらせて貰うか」


「……!?」


 そんな風使いの()()()()現れた俺は、その背中に向けてクロスボウを放つ。

 風使いはギリギリで躱したけど、そのすぐ隣で護衛していた別のゴブリンに突き刺さり、そのまま倒れ伏す。

 残念、これで当たれば楽だったんだけど。


「お前っ、いつの間に……!?」


「誰がご親切に教えるかよ」


 そう言って再び後ろに跳び、木の陰に身を隠す。

 風使いが咄嗟に放った風の弾丸が俺のいた木を薙ぎ払うも、そこには既に俺はいない。


「どこだ、どこにいる!?」


「それこそ、ついさっき初めて対面した時みたいに、自力で見つければいいんじゃないか? 直接見たわけでもないのに、俺の仲間を見つけていただろ?」


「くっ、この……僕の魔法がどういうものかわかったっていうのか……!?」


 さっき出くわした時、こいつが俺達の位置を特定出来た理由。

 多分、風の魔法に関係することだろうと当たりを付けて、自分の周囲の空気を魔法を使う時の感覚で掌握してみると……空気の流れ、そこに含まれる匂いや音と言った情報が把握しやすくなり、相手のいる位置が何となく掴めることが分かった。

 だから、同じ要領で自分が動く時の空気の流れを抑えて、足音や匂いが一切周囲に伝わらないようにしてみたんだが、案外上手くいったらしい。


「感謝するよ、お前のお陰で、風魔法のコツが掴めた気がする」


 この魔法は大気を操る魔法であり、大気を元に周囲の空間を掌握する魔法。

 未熟な俺が何かに纏わせる形でしか風魔法を使えなかったのも、目に見えない空間を掴む感覚が分からず、その中心点として目に見える対象を必要としていたからだ。

 それ自体は、今も変わらない。でも、俺を中心に感覚を広げるこの魔法――《風感知エアサーチ》があれば、敵の動きや息遣い、そこから今何をしようとしているのか、直接見なくても掴めてくる。


「はあっ!!」


 不自然な風の動き。魔法による大気の増加。

 めったやたらに繰り出される風の弾丸を察知して身を躱し、お返しとばかりに魔法で跳び上がった木の上からクロスボウを放つ。

 完全に意識外から撃ったはずだけど、やっぱりあいつも俺と同じで、周囲の風の動きを感じ取ってるんだろう。あっさりと躱され、外れた矢が足元の地面に突き立った。

 自分の身を隠す分にはともかく、高速で飛ぶ矢の気配を隠せるほど、俺はまだ魔法を上手く使えない。

 こいつを倒すには、気付かれないような攻撃か、もしくは気付いてもどうしようもない必中の攻撃が必要だ。


「まあ、まずは周囲の護衛を仕留めておくか」


 木々の合間を飛び回り、時折魔法で全く見当外れの場所に音を発生させ、敵を混乱させながらクロスボウを放つ。

 俺の居場所も分からなければ、風使いのように死角からの不意打ちに反応出来ないゴブリン達に、この攻撃を躱す術なんてあるはずもない。あっさりと数を減らしていく。

 その間、風使いも何もしなかったわけじゃないが、滅茶苦茶に繰り出される魔法は掠りもしなかった。


「全く、使えない雑魚共め……だが、いい時間稼ぎにはなったな」


 やがて、全ての護衛を失った風使いは、それでも焦りの色を見せず、むしろ余裕の表情で()()見つめている。

 その理由は、単純明快。

 護衛のゴブリン達が全滅するまでの間に、こいつは魔法を使って周囲の木々を徹底的に薙ぎ倒し、俺の隠れる場所を根こそぎ奪い取ったからだ。

 姿を現した俺に対し、風使いはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「コソコソと逃げ回るのは終わりか? 不意打ちしか出来ない腰抜けめ」


「むしろ、正面から力技で戦うことしか出来ないお前は、脳筋って言うんじゃないか? ほら、さっき俺達の村の壁を壊した、でっかいゴブリンと同じで」


 煽って来たので煽り返すと、風使いは血管がはち切れそうなほどこめかみに青筋を浮かべ、屈辱の表情で俺を睨む。


 うーん、他の戦士から引き離されて喜ぶくらいだし、仲が悪いのかと思って同列視してみたけど、ここまで頭に血を上らせるか。

 まあ、舌戦で元人間の俺に勝てると思うなよってね。こいつが怒りっぽいだけかもしれないけど。


「あんな奴と僕を一緒にするな!! 死ね!!」


「おっと」


 再び繰り出される風の弾幕を躱しながら、俺は内心で舌を巻く。

 こういう攻撃魔法の練度そのものは、俺よりこいつの方が数段上だな。何の起点もなく、しっかりと固めた風をよくもまあこんなに連射出来るもんだ。敵同士でなければ、教えを請いたいくらいだよ。

 でもそんな魔法も、《風感知》を習得した今の俺なら、躱す分にはさほど問題はない。

 弾幕といっても、マシンガンみたく人が生存する空間を全て消し飛ばすほど濃密なものじゃない以上、何の搦め手もなく正面から連打される魔法を躱すのは、ドッジボールよりも簡単だ。


「それしか出来ないのか? ならやっぱり、俺一人でここに来て正解だな。お前、他二匹の戦士と比べても、一番弱いだろ」


「ッ!! こ、この、どこまでも舐めやがって……!!」


 図星なのか、より一層怒りの形相を激しいものに変え、魔法を連打する風使い。

 水の戦士は、正直なところ俺一人じゃあんまり勝てる気がしないし、巨漢の戦士には俺の予想を超える動きで土壁を破壊されてしまった。


 こいつだけが、事前情報から何一つ俺の予想を超える手を打たない。

 打たれたら負けるのは俺だから、それは大いに結構なんだけど、ラビット達を俺の保険にせず村に残した判断は間違ってなかったと知れて、結構内心でほっとしてる。


「はあッ! はあッ! はあッ! ……ぐっ、うっ……? どうして僕は、こんなに早く、疲れて……!?」


 そうこうしているうちに、風使いは大きく呼吸を乱し、その場に膝を突く。

 既に立ち上がることもままならないといったその様子に、俺は作戦の成功を確信した。


「気付いてなかったのか? 俺、さっきからずっとお前に攻撃を仕掛けてたんだけど」


「な、に……!? バカな、お前の放つ、攻撃は……全て、躱した、はず……!」


「躱したと思ってるその矢、何かおかしいと思わなかったのか?」


「なに……?」


 今、風使いの周囲にはゴブリン達の骸が転がり、矢が突き立っている。

 他にも、外れた矢が何本か地面に刺さっており、それはさながら、最初の位置からほとんど動いていない風使いを囲うような配置だ。


「ま、まさか……この矢に、魔法を……!?」


「ご明察。その矢を起点に周囲の空気を少し薄めて、お前の消耗を促進させた。《大気喪失エアロスト》とでも名付けようかね?」


 当たり前といえば当たり前だけど、ゴブリンも人と同じように呼吸する生き物だ。

 空気が薄い場所では消耗が早まり、体が馴染む前に激しい運動なんてしようものなら、酸欠であっさりぶっ倒れ、最悪死ぬ。


 そう、俺は最初から、この魔法による決着を狙っていたんだ。

 俺の《風感知》がこいつの猿真似である以上、クロスボウの矢が当てられるとも思えないし、だったら攻撃とも感じ取れないくらいの微弱な魔法、些細な変化でこいつを弱体化させようという狙い。

 だから、「速攻で仕留める」なんて言って怒りを煽り、戦闘中もベラベラ話しかけて意識を俺に集中させた。少しでも、外れた矢から意識が逸れるように。


 こいつが近接戦を狙って隠れた俺に向かってきたり、僅かな違和感に早々に気付いて対策を打ってくれば破綻していた手だけど、頭に血が上りやすい奴で助かった。


 お陰で最初の宣言通り、すぐにケリが着く。


「くっ、この……! 舐め、るな……あぐ……!」


 酸欠のせいで、もはや魔法の構築すら出来ないのか、掲げた掌が力なく地面へと倒れる。

 異変に気付いた段階で、俺の解説に付き合ったりせずさっさと魔法をぶっ放せば、まだ逆転できる可能性もあったんだけど……話している間に一気に《大気喪失》を加速させて追い込んだから、もう無理だろう。

 本当、単純な奴はやりやすいな。


「くっ、そぉ……!! いやだ、こんなところで、こんなところで、僕は……まだ……!!」


「……ゴブリンでも、命乞いするんだな。けど、悪いな……時間もないんだ、さっさと、死んでくれ」


 放っておいてもそのまま死にそうなほどにフラフラの風使いへとクロスボウを構え、躊躇なく発射。

 脳天を貫かれ、風使いが絶命したのを確認した俺は《大気喪失》を解き、気圧差で吹き込む風に顔を顰めながら、村の方へと意識を向ける。


「みんなは無事か……? 今行くから、待ってろよ……!」


 ハロルドの魔法なのか、ちょうど激しい爆音が轟いた村に向かって、俺は急ぎ駆け出すのだった。

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