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第十七話 決戦準備

「ふむ、魔法を手の代わりとするか……そんな使い方は考えつかんかったの」


 レイがバリスタを完成させた後、俺達はハロルドの元に向かい、魔法について話を聞いていた。

 とはいえ、やっぱり炎は攻撃性能が高い代わりというべきか、それほど応用が効くわけでもないようで、俺達の使い方に驚いた様子だけど。


「ワシは概ね、火を着けるための小さな炎、攻撃のための大きな炎、という風にしか使い分けておらん。それで十分じゃったからな」


「けど、ハロルドが使う炎はこう、綺麗に纏まってて威力が高いじゃないですか。俺はどうしてもその辺り、上手く風が纏まらなくて」


 レントと初めて出くわした時も、ブレードベアの攻撃を参考に、風の斬撃――《風刃》とでも名付けておく――を放とうとしたけど、上手くいかなかった。

 クロスボウの矢には上手く風を纏わせられたし、何か核になるものがあれば違うってことなのかもしれないけど、ハロルドはそういうのを使ってる様子はない。

 何かコツがあるのかと問うと、全ては慣れだというありがたいお言葉をいただいた。

 いや、なんじゃそりゃ。


「ワシも最初は、木の葉などの火種を中心に炎の魔法を使っておったが、慣れて来るにつれて必要なくなったからの。お前達も、使っているうちに出来るようになるじゃろう」


「うーん、最後はそうなるか……」


 俺とレイは、あくまで風や土なんかを“操る”魔法。でも、ハロルドや敵の戦士は、一から水や炎を生み出してる。

 この辺り、魔法を覚えたての俺達と、既に熟達している者の差だと言われれば納得せざるを得ない。

 まあ、今は成長の余地があるって分かっただけでもよしとするか。


「でも、俺達がハロルドの真似を出来ない理由が練度不足なら、ハロルドの魔法は応用の余地がありそうですよね。炎を地面に広げたり、壁みたいに吹き上がらせたり、そういうのって出来ます?」


「ふむ? 出来なくはないじゃろうが……消耗が激しくなる上に、殺すほどの威力は出せんぞ」


「構いませんよ、ちょっと練習しておいてください」


「ふむ、分かった」


 敬語を使いながら、言うことは「練習しとけ」っていうのも変な話だけど、この件が片付くまでは俺に全権を託すって言ったのは他ならないハロルドの方だ。だから遠慮なく利用させて貰う。


「さて、それじゃあ俺達は魔法の練習を兼ねて、カレンと一緒に新しい防衛設備を作ろう」


「防衛設備?」


 話を終え、外に出た俺は、次なる準備のためにレイと一緒に作業場へと向かった。

 ここ数日はクロスボウやら新しい槍の製作にかかりきりにさせてるし、そろそろ雌達も休ませてやりたいところだけど、命がかかった状況じゃそうも言ってられない。

 不満が出るかもしれないけど……うーん、肉で釣ればどうにかなるかな?


「それで、今度は何を作るんだい?」


 と、思ったけど、カレンは結構やる気満々だった。

 他の雌ゴブリン達の中には疲労でヘロヘロになってる奴もいるけど、彼女は魔石を喰ったこともあり、元気が有り余ってるらしい。

 もっと働いてくれとは言ったけど、この分ならもうしばらく扱き使っても大丈夫そうだな。


「それじゃあ、俺達で見張り台を作ろう。レイが作ってくれた土壁で守りやすくはなったけど、それも敵の接近に気付けないと有効に使えないからな」


 ゴブリンは口喧しいし、襲撃の際にも静かにしていられない。だから、最悪でも声で襲撃方向は分かると思って後回しにしてたけど、バリスタなんて物を用意されたからには、優先順位がぐっと上がる。

 こういう兵器は、高くて見晴らしの良いところに設置してこそだからな。見張りついでの狙撃台として利用しよう。


「へえ、どんなのだい?」


「まあ、土壁を越えて先が見渡せればいいから、高さはそれくらいで……場所は……」


 簡単な設計案をカレンに伝え、早速レイと一緒に製作に取り掛かって貰う。

 まず作るのは、木の骨組み。

 いくら魔法があると言っても、建築のノウハウなんてないに等しい俺達じゃ大した物は作れないけど、ひとまずは即席でいい。

 土魔法は木材も加工できるけど、土ほど自由自在とはいかない。そこで活躍するのが、俺の風魔法だ。

 ブレードベアみたいに斬撃を飛ばすことは出来ないけど、石器に纏わせて切れ味を増すことは出来るし、高いところへ持ち上げて組み立てるにも、土魔法で作った手よりも風魔法の手の方が細かい作業に向いている。

 そうして、たった三匹とは思えないほど早く出来上がった骨組みの上に、土魔法によって土を盛り上げ、石のように固めて補強していく。

 土を素材に使うのは、補強以外にも見張り台の上でレイがバリスタの弾を生成できるようにって意味もあるけど、これはまあ保険かな。見張り台への上り方は梯子じゃなくスロープにして、他のゴブリン達が弾や、バリスタ本体を素早く持ち運べるようにしよう。


「よし、完成!」


 そうして……まあ、お世辞にも綺麗な出来栄えとは言えないものの、見張り台兼バリスタの発射台としては十分に実用に耐えられる代物が出来上がった。

 屋根も、柵すらないから、雨に濡れるわ足を踏み外せば落ちるわで、中々不便ではあるけど……よく考えればこの森、気候のせいか、単にそういう季節じゃないからか、雨がほとんど降らないんだよな。

 魔法で固めた土が雨にどれくらい耐性あるか分からないし、いずれはその辺りも対策したいな……。


「まあ、それは今後の課題か」


「うん?」


「いい出来だって言ったんだよ。カレンもお疲れ様」


「これくらい大したことないさ」


 俺の独り言に反応するレイの頭を撫でつつ、カレンも労う。

 これで、防衛設備の方は概ね整ったし、後は罠を仕掛けて、奇襲を防ぐための斥候を放てば、俺に思いつく準備は終わりか。

 あまり無理をし過ぎて、疲労が残った状態で戦うのもよくないしな。


「さて、どうなるかな……」


 やれるだけのことはやった。後は迎え撃つばかり。

 人事を尽くして天命を待つ、なんて言うけれど、実際にその状況になるとまたもや不安が顔を出す。

 腐っても長になろうなんて目指してる奴が、情けないことこの上ないな。


 それでも、生き残りたければやるしかない。


「カイト、大丈夫?」


 よっぽど不安そうな顔でもしてしまっていたのか、レイから心配そうに見つめられる。

 その瞳に浮かんでいるのは、あくまで俺に対する心配で、この先村が壊滅して死ぬかもしれないという恐怖はどこにも感じられない。

 ビビりなレイすらこの調子なのに、俺がビビってたら世話ないな。


「ああ、大丈夫だよ。大丈夫」


 自分に言い聞かせるように、俺は呟く。

 あの水の戦士はプライドが高そうだったし、俺達の村を潰す者だと名乗った。それなら、他にあいつと同等のゴブリンがいたとしても、揃って襲来してくる可能性はそれほど高くない。

 加えて、あいつの魔法は範囲攻撃型。雑魚ゴブリンをいくら並べても、一緒に戦うのは難しいはずだ。


 雑魚が群れるだけなら、今の俺達に負けはない。そして、水の戦士単体でも、この場所でなら負ける気はしない。

 なら……あとは、予想外の事態が起きないように、偵察による情報収集を欠かさず行いつつ、ついでに部隊長を中心としたゴブリン達の連携を少しでも高めておくだけだ。


「それじゃあ、俺は森に出るから、後のことは頼む。合図は事前に伝えた通りに」


「ん、分かった」


「気を付けて行っといで」


 レイ達に見送られ、俺は部隊長を含む四匹のゴブリン達と狩りに出る。

 今日からは、各部隊ローテーションで見回りと訓練。どこまでやれるかは運次第。


 どちらにせよ……俺達の生存を賭けた決戦の時は、近い。

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