表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

10 サイの村でテンとセージに出会う


 山小屋で一泊し、早朝に老夫婦と一緒に、サイに向かう。

 ピピンとヤンはスープをご馳走になったお礼に、夫婦の採った野草の籠をよっこいせ、と背負った。


「いやぁ、楽さしてもらうわぁ」

「小っこい兄さんは、大丈夫かね?」

 夫婦の言う通り、背の低いピピンは、籠と大きさがほとんど変わらない。

 背中からみると籠が歩いているようなモノだった。


「いえ、鍛えてあるので、大丈夫ですよ」

 ピピンはニカッと笑うと、すたすたと峠を越える道を歩いて行った。


 峠を越え、緩やかなアップダウンをふたつ繰り返すと、すり鉢にも似た小さな盆地が見えてきた。

 サイの村だ。ここからは急峻な下り坂になる。


 眼下に広がるサイの村は、こぢんまりした普通の集落に見える。

「畑もあるんですね――何が採れるんですか?」

「土地が痩せてっからな。芋とかソバとか、そんなもんよ」


「はぁ、あそこが客用のコテージさぁ」

 爺さんの指差した先に、小さいがしっかりした造りの小屋が見える。

「お。テンもセージも、おるよ。行って話を聞いてみると、ええ」

 籠を老夫婦に返して礼を言い別れると、ピピンとヤンは、指し示された客用コテージに向かった。






 コテージ近くの広場では、種族も風体も異なった三人が、何やら面妖な機械を弄くり回していた。

 ひとりは黒髭の立派な、がっちりした男性で、ドワーフとはっきり分かる。

 寄り添うように作業をしているのは色白のほっそりした女性で、絶世の美女と言っても良い顔立ちである。耳は尖ってないが、ハーフエルフだろうか。


 ドワーフとエルフの仲睦まじい姿というのも珍しいが、作業の中心になっている青年の姿が、見た事もないほど奇異であった。

 長身で細マッチョぽい背格好と、尖った耳はエルフを思わせる。

 しかしその耳からは猫の髭みたいに、耳毛の剛毛がボワッと生えていた。

 

 浅黒い肌はダークエルフのソレとも違っていて、何より髪からアゴヒゲから、腕まくりしてる腕まで、何もかもが毛深い。しかもその剛毛が全部、青みがかった銀色ときた。

 ピピンもヤンも、彼がどの種族に当たるのか、皆目見当もつかなかった。


 三人が作業をしている傍らでは、小さな可愛い女の子が、チョウチョを追っては転び、トンボを追っては転び、している。

 近くの地べたでは男の子が座り込んで、地面に何か書きながら、難しい顔で考え込んでいる風であった。






「そう言えば、誰がテンさんで誰がセージさんか、訊くの忘れちゃいましたね」

 ピピンとヤンが顔を見合わせ、苦笑いする。

 折しもドワーフとハーフエルフと思しき女性が、近付いてくる彼らに気付き、手を止めてこちらを見た。

 銀髪剛毛の青年は、脇目も振らず作業に勤しんでいる。


「こんにちは、フンから来ました。私は拳闘士のピピン。コレは弟子の、ヤンです」

 ピピンたちの挨拶に合わせ、無言で会釈をするふたり。女性は感情の分かりにくい笑みを浮かべ、ドワーフは無表情。そして青年は聞いてる素振りすら見せない。


「はい――フンからわざわざ、こんなとこまで……?」

「如何様な、用向きかね?!」

 応対してくれた女性を太い腕で制しつつ、ドワーフが野太い声でこちらを睨みつけた。


「はい」

 一流の拳闘士たるモノ、こんな事でビビる筈がない――戦闘になったら、ぶっ飛ばされるのは必至だが。

 ピピンはドワーフの目をキッと見つめ返す。

「行方不明の勇者一行を救出するのに、テンさんとセージさんのお力を借りたいのです――テンさんと、セージさんですね?」

 ピピンの視線は、ハーフエルフの女性に移った。


 女性の表情が一気に和むのが分かった。

「はっはっはあ。勇者たちの、お知り合いかねっ! そいつぁ失礼した」

 ドワーフも愉快そうに呵々大笑する。


「おーいっ! テン、セージ! お客さんだぞぉ」

『はぁーいっ』

 ドワーフの呼びかけに応えたのは何と、作業に加わってなかったふたりの子どもたちの方だった。


 天真爛漫な笑顔で駆け寄ってきたテンが、ピピンの手前でビタン、と転ぶ。

「あーあ、また計算し直さなくちゃ……」

 それを見たセージが、目を覆って嘆息した。


「テンだよ」

「セージです」

 テンの服のあちこちに付きまくった泥を払いながら、子どもたちは次々に名乗った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ