32 ピピン、新たに生まれた友情に感謝する
「ぴーよぴよぴよ、もうだめらぁ……きゅう」
びたーんとぶっ飛ばされドゴーンと激突し、ドゴンドゴンドゴンと脳天に木の実を食らい、それを五回繰り返した処で、さすがのピピンもとうとう伸びてしまった。
どう考えても木の実の採取に最適な方法とは言い難かったが、鍛えてばかりだったので、仕方ないだろう。
どのくらい経ったのだろうか。
ピピンが、心地良い揺れに目を覚ますとそこは、なんと母魔猪の背中の上であった。
「ふあ……こりゃいったい……」
「おっ母さんが、僕たちを乗せてくれたんですよ」
見るとおっ母さんは、たくさんの木の実を積んだ大きな荷車を、ロープで牙と身体にくくり付け、ピピンたち三人を背中に乗せながら、えっちらおっちら曳いている。
「おっ母さん、ちからもちー」
「えーと、いろいろ訊きたい事はあるが、あの荷車って、まさかテンが……」
「そのまさか、ですよ。ぜーんぶ姉さんが、拾って来ました」
当然といった感じの表情で、セージが呟く。
魔界の森のいったい何処に、荷車とロープ一式が落ちていたのかどう考えても謎であるが、テンと暮らしていると、それが日常らしい。
「ぶもっ?」
「ぷもっ、ぷもっ」
背中の気配に気付いたおっ母さんと仔らが、ピピンに話し掛けてきた。
「ああ、もう大丈夫だ……それよりこんな力仕事させて、悪いな……ああ……そうか……ありがとう……」
ピピンがドえらく優しい眼差しで、おっ母さんの背中を何度となく撫でる。
「そうだよ……俺たちはもう、友だちだ……」
おっ母さんが言うには、しばらく食うに困らない、こんな美味しい木の実が大量にあるなら、力仕事は願ったり叶ったり、だそうだ。
「それに――何か気付いた事は、あるかい?」
「気付いた事、ですか?」
「おっ母さん、むらさきのもやもや、だしてないよっ」
テンがイッパツで正解を出した。
「そうなんだ」
ピピンがおっ母さんの背中をまたもや撫でると、くすぐったいのか少し身震いする。
「おっ母さん、俺たちのために、わざと瘴気を出すの、控えてくれてるんだ――感謝するぜ」
「かんしゃーっ」
テンがあろう事か、おっ母さんの背中ででんぐり返しを始めたので、当然ながら重力に則り、ころころ転がっていった。
しかし最早、セージもピピンも顔色ひとつ変えない。
テンの強運は、この程度じゃ揺らぎもしないに決まっている。
予想通りと言うべきか、おっ母さんの鼻面までころころ真っ直ぐ転がったテンは、おっ母さんがピーンと鼻でテンを飛ばし、ピピンの腕の元まで飛んで行った。
「はーい、ないすきゃっちぃ」
テンをお姫さま抱っこで受け止めたピピンに、セージがおざなりな拍手を送る。
「おっ母さん、ナイス鼻芸」
ピピンのひと言におっ母さんが声高く、ぶもーーっと返事した。
魔界の森を抜け、地平線に低い建物と、その向こうにお城っぽい大きな建物が見えてきた。
魔王の棲み処そしておばあちゃんちは、もうすぐそこだ。
ちなみに例の木の実は『メロメロンの実』と命名された。
美味しすぎてみんなメロメロになるので、テンがそう名付けた。
ピピンが提案した『ほっぺた落ちるの実』は、全会一致で敢えなく却下されたそうだ。




