31 ピピンとH・A・Y3世との対話
得体の知れない木の実を食べようとするピピンに、姉弟ふたりは二種二様に反応した。
「ピピンさん、そんな見た事もない木の実、ほいほい口にしちゃって良いんですか?」
「わーい、あたしにもちょーだぁい」
「なに、案ずるな。俺は修行中、木の根とか土とか食ってたから、食い意地が超進化してんだ。毒だったら勝手にリバースするよう、身体が出来てる」
そう言ってニカッと笑うと、ピピンは木の実を掌で転がし吟味する。
「お、ここだ」
ポイントを見つけたピピンが手刀で木の実をポコーンと叩くと、木の実はパカーンと真っ二つになった。
「物理エネルギーゼロのピピンさんが……硬い木の実を割った……」
セージの顎が地面に着きそうなほど、大きくあんぐり開かれた。
確かに、ピピンの石頭にも耐えた木の実である。簡単に割れる方が、むしろおかしい。
「食い意地だよ、食い意地……さあ、食え」
「あっりがとーぉ」
歯を剥き出しにした笑顔で、ピピンはテンに木の実の半分を渡した。
『いっただっきまぁす』
一瞬の躊躇いもなく、果肉に齧りつく。
「お…………」
顔をほころばせながら見合わせるふたり。
『おっいしーい!』
「甘く……みずみずしくて……しかも上品な味ですね……」
お前もどうだ、と渡された果肉に齧りつき、セージが満足そうに微笑んでいる。
セージだけじゃなく、誰もが嬉しそうだ。
そう。美味い食べ物は、みんなを幸せにする。
「これは美味しいですね……何の実でしょうか? 瓜に似た食感ですか、瓜は木に成らないし……」
「そうだな。ぶつかったお詫びと木の実のお礼を兼ねて、本人に訊いてみよう」
そう言うとピピンは、木に掌を当ててじっと目を閉じた。
「ピピンさんは、植物とも話せるんですか」
「しっ」
ピピンが人差し指で唇を塞ぎながらウインクした。
待つこと……一昼夜。
テンや魔猪らがぐうぐう雑魚寝して、起きてからもしばらくは、ピピンは木と話していた。
その間、彼らは一緒に木の実を食べ、母の背中を掻き、仔らと追いかけっこなどして遊び、すっかり仲良くなった。
「申し訳ないけど、そのへんで。いや、こちらこそ楽しかったよ」
ピピンが幹をぽんぽん、と叩き、愛おしそうに木を見つめた。
どうやら、ようやく話が終わったらしい。
「木ってさ、話すのが凄くゆっくりなのと、久しぶりに喋ったから喜んじゃって。あと三日は話したそうにしてたけど、先を急ぐんでキリのいいとこで切り上げたよ」
ピピンの通訳に依れば、『木』氏はハネデュー・アンデス夕張3世といって、やはり瓜の仲間だそうだ。
一介の蔓草だったお祖父さんの1世が、一念発起して臥薪嘗胆を重ねた末に根性で木になり、お父さんの2世が自らを実験台にして、試行錯誤を繰り返した末に、瘴気に負けない硬い皮を持った実を開発した。
3世の仕事は、見事に完成品となった木の実を、魔獣たちに食べてもらう販売促進であり、それにより子孫繁栄を画策する、というモノであった。
「凄いなあ……父祖三大に渡る壮大なストーリーが、H・A・Y3世さんには内包されてたんですね……」
感心したように呟く、セージ。
進化の速度をまったく無視した所業である事は、この際不問である。
「そうなんだ――お祖父さんとお父さんの自慢話を延々続けそうになったので、ちょっと退散させてもらったんだな、これが」
ピピンの本音がポロリと出た。
「ところでこの実、何て呼んだら良いんですか?」
「呼び名? 『3世の実』でいいんじゃないか?」
――ピピンに訊くんじゃなかった……
「というわけで、今成熟してる実は、是非全部持ってって欲しいそうだ。それをあちこちのみんなに食べてもらいたいんだ、ってさ」
皮の色が緑から黄緑に変わると食べ頃、との話だった。
「とは言えども、あれじゃあ、ねえ……」
ため息混じりに、セージがHAY3世氏を見上げた。
巨木であるHAY3世氏の、かなり上の方に、これでもかと実が成っている。
「3世さん、マーケティング失敗してると思いますよ――これじゃあ、飛行生物しかあの実、穫れないですよねえ……」
「なあに、俺がひと肌脱ごう」
ピピンがコキコキッと肩を揺らしながら、気合いを入れる。
「俺がHAY3世さんにブチ当たれば、熟れてる実だけ落ちてくれるさ――なあ、おっ母さん、また頼むよ」
そう言ってピピンは、母魔猪の頬を撫でる。
「ぶも?」
「俺を3世さんに向かって、ぶっ飛ばしてくれ」
「ぶもーおっ(こーお)?」
おっ母さんと呼ばれた母魔猪が、前脚でピピンをびたーんとぶっ飛ばす。
凄い勢いでドゴーンとHAY3世氏にブチ当たる、ピピン。
そしてその衝撃で、再びピピンの頭を目がけ、HAY三代が手塩に掛けた木の実が、ドゴンドゴンドゴンと落ちてくるのであった。




