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28 あっという間に魔王領


 ピピンとテン、セージの三人で乗り込んだ『おばあちゃんち一号』は、意外に静かで、揺れもほとんどなかった。

 ただ、フードの天井はかなり低く、そして狭い。

 ピピンたち三人が入ると、ぎゅうぎゅうだった。


「こりゃどっちにしても、ヤンは乗れなかったなっ」

 長身のヤンには、この低い天井はキツすぎるだろう。


「天井に発光塗料を塗ってあるんで、洞窟内でも明るいんですよ。フードの材質が実は謎でして、姉さんが谷底から拾ってきて遊んでたんですが――どう見てもこれ、太古の無脊椎生物の、殻なんですよねえ。いったいどうしたら、こんなの拾えるんだか……」

 セージがピピンの呟きを介せず、勝手に喋りまくっている。

 ヤンのような上手な聴き手が居なくなって、いちばん寂しいのはセージかも知れない。


「なあ、ひとつ疑問があるんだが――どーしてテンが、これ操縦してんだ?」

 いちばん前の操縦席では、テンが操縦桿を握って『きゅいーん』とか『ぶぶんどどぉー』とか言いながら、楽しそうに操縦している。

 けして下手クソではないのだが、無駄な動きが多いので、時折不快な横揺れが生じていた。


「ああ、理由は簡単です。実はこれ、軌道車には通電してないんですよ。洞窟内の発電設備だと、レールと壁に帯電させるのが精いっぱいで」

 つまりリニア本体には電気が通ってないのに、モーターは回っている。

「えーと……つーことは?」

「軌道車は、姉さんの電荷エネルギーで電磁石を動かしてるんです」


 夢のリニアモーターカー『おばあちゃんち一号』は、まさかの人力であった。

 しかし、速いぞ。






「まもなくとうちゃくしまぁす。おんりのさいは、お手まりのおひなさまをも一度ろーにんして、わすれな草が泣いた全米におチューしましょー」

「今の呪文は、何なの?」

「勇者さまたちに教わった口上だって話ですが……」

 テンの操縦に、ピピンが二回ほど『うぷっ』となって胃液を飲み込んだ後に、『おばあちゃんち一号』は緩やかに減速し、やがて停車した。


「うんこちんちーん」

「年頃の娘が口走る言葉じゃ、ないなっ」

 もはや何と間違えてるのかさえ、見当がつかない。


 軌道車から降りると、そこはまだ真っ暗な洞窟の中だったが、少し遠くにちいさな光が見えていた。

 再びセージを先頭に、三人になった勇者救出の一行は、洞窟に向かって歩を進める。


「静かだなあ」

「そーなんです、軌道車を走らせる際に不本意ですが、蝙蝠や魔獣には退去してもらいました――衝突事故は、僕らにも生き物たちにとっても、不幸な結果しかもたらしませんから。まず乗り場の出入口に蝙蝠の嫌う超音波を常時流しておき、さらに魔王領側の洞窟出口付近には、姉さんの電荷エネルギーと同波長のバリアを張って、侵入を防いでいます。そうするためには、こっち側にも発電設備が必要になるので、トレヴォにコンパクトな発電機を作ってもらい、トロッコ貨車に載せ、運んで設置して、ですね……」

「こーもりさーぁん、ぴーよぴよ♪ つっるピカちゃびんを、ゲットしたぁ♪」


 あっという間に、静かでなくなってしまった……

 テンとセージ、この姉弟をふたり同時に相手していたヤンの偉大さを、痛くなってきた頭を押さえながら、ピピンは再認識した。






 そうして一行は洞窟を抜け、再び太陽の下に立ったのだった。

「あーーっ、やっぱり外の方が気持ち良いなあ……って、あまり瘴気が強くないな?」

 魔王領なのだから、紫色の空とか、立ち籠める瘴気の靄などを想像していたピピンは、いささか拍子抜けした。


「ここは外れですからね。もう8分の半日(12時間、720分の8分の1だから、1時間30分相当)ほど歩けば社宅に着くから、魔族の人たちがたくさん住んでるので、雰囲気が少し変わりますよ」

「おばあちゃんちも、そこにあるのよぉ」


 ――社宅??

 気になるワードがあったような気もしたが、ともあれ魔王の棲みに向かって、えっちらおっちら歩き始めた。


 一行の行く手には、鬱蒼とした森が立ちはだかっていた。

「こっちだよぉ」

 今度はテンが先頭に立つと、ほとんど獣道のような細い轍を、テンはテテテと駆けていく――いや。走ろうとした瞬間、草に足を取られてすってんころりと転んだ。


「あーあ、気をつけなよ、テン」

「そんな事より姉さん、転んだ拍子に何か拾ってませんか?」

 テンの強運は、このくらいの事ではビクともしないらしい。


「うん、これ」

 テンは虹色に光る貝殻のようなモノを、セージに渡した。

「これは――後でよく調べてみましょう」

 セージはそう言うと、多分レアアイテムらしきソレを、背負い袋にしまい込んだ。


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