24 ヤンの特訓が奇跡を起こした件
三日後。
「これは……奇跡だ……」
発電所の小屋で、セージが光量測定器をスリスリしながら、驚きを隠せないでいる。
「どうですか?」
固唾を飲んで結果を聞く、ヤン。
瓶の発光物質は万遍なく身体に塗ってあって、つまりヤンは現在素っ裸、対外的には股間にモザイクの掛かっている状態だ。
なお、テンがまたもや『ちんちんだぁ』とハッスルし始めたので、電気蔓でぐるぐるに縛って、床に置いてある。
「ヤンのちんちんと、ピピンのちんちんは、どーして形がちがうのぉ? ヤンのは皮がかぶって……」
とか、やくたいもない事を言い出したために、猿ぐつわも噛ませてあった。
この三日三晩ヤンは、ほぼ飲まず食わずで、魂を込めた正拳突きを不眠不休で繰り返した。
ヤンの気合いは凄まじく、声を涸らしながらも『はあっ!』『とりゃあっ!』と正拳を突き続け、夜はさすがに迷惑だったので、起重機でヤンを運んで発電所小屋に押し込め、朝になると同様の手順で、ヤンを外に出した。
ただただ、師匠と行動を共にしたいが為の、決死の特訓である。
ピピンもさすがに心打たれるモノがあったし、測定結果も気になった。
「たったの三日で……信じられない……」
計器を持つセージの手が、わなわなと震えている。
「三日前は、確かにゼロだったんですよ? こんな短期間鍛えただけで、電荷エネルギーが出せるようになるなんて……」
「ヤンッ!」
「お師さん!!」
思わず顔を大きくほころばせ、手を取り合う師弟。
「間違いありません。確かに平均で0.1単位、電荷を放出してます」
はい、不合格。この100倍ないと、魔王領では死んでしまう。
「きゅう」
精も根も尽き果て、その場で大の字に横たわる、ヤン。
股間のモザイクも、だらんと力無く床に横たわってしまった。
「胸を張れ、ヤン。お前は良くやった」
ピピンがヤンの手を取って起こし、サルマタを渡す。
「お師さん……」
師匠を見つめるヤンの眼に、涙がいっぱい溜まっている。
「そうですよ、僕ら以外に電荷エネルギーを持つ地上人て、ピピンさんしか居なかったんですから――」
興奮気味にまくし立てるセージの声も、ふたりの耳にはほとんど入って来ない。
「むーっ、ふむーっ」
と、これは縛られて床に転がらされているテンの声は、雑音でしかなかった。
「よくぞ結果を出した。ヤン、偉いぞ」
ピピンは少し背伸びをして、床にへたり込んだヤンの頭をガシッと掴み、乱暴に撫で回した。
ヤンはもう、我慢しきれなくなった。ぽろぽろ涙を零し、低く嗚咽の声が聞こえてくる。
「お師、さん……」
「ヤン。お前は俺の、自慢の弟子だ。正直で礼儀正しく、いつも一生懸命稽古をする。おまけに俺より強い」
「やだなあ。お師さんより弱い人なんて、滅多にいないですよう」
「それも、そうだな」
ヤンの顔がくしゃくしゃになって、ようやく笑った。
「とにかくお前は、俺が十年以上かかって辿り着いた境地に、まだ入り口だが三日で来れたんだ。胸を張れ、そして腕を磨いて、強いまま瘴気を吹き飛ばせるようになれ」
物理的エネルギーはそのままに、電荷エネルギーの放出と使い分ける――それはつまり、師匠のピピンを超えろ、という事だ。
聡明なヤンは、瞬時に理解した。
短い指を折りながら、何やら思案を巡らせるピピン。
「三日で0.1だろ? 単純計算でいけば1500日、か――このまま飲まず食わずで特訓し続ければ、四年と四十日で、俺より強い電荷を出せるようになるぞ」
「飲まず食わずだと、その時に僕の命があるかどうか、ちょっと自信ないですけどね」




