23 残酷な現実に気付く事と、それに抗う意志
セージが取り出してきた短い毛の付いたブラシみたいなモノで、ピピンはそれこそ頭から足裏まで、全身をスリスリされた。
ブラシからは電機蔓が机の上の装置に繋がっていて、これで電荷エネルギーから変換された光量を測定するらしい。
「これはですね、デーモンさんの持ってた太陽電池がヒントになったんです――光の波を電流に戻して測定するんですよ。勇者の皆さん、僕の知らない事をたくさん知ってて、ほんと刺激になりました」
セージに限らずサイの村にとって、勇者たちの来訪はいい事ずくめだったらしい。
勇者の召喚が魔王の激怒を引き起こし、その結果、王都テンは崩壊したわけであるが。
「変なとこがやたら光ってるのはさておき――背中の方は少し光がまだらになってますね?」
ヤンがテンの手をキレイキレイにして、戻って来た。
「これはですね――ヤンが塗ったとこと僕が塗ったとこで、発光の強さが異なってるんです。電荷エネルギーを持つ者同士が触れ合うと、エネルギーが増幅するんですね。それは僕と姉さんとで実証済です」
「テンが触ったとこは一目瞭然ですね」
「変なとこばかり触りやがって……年頃の娘のくせに、エロいヤツだ」
「テン、エロくないもんっ!! エロくないからねっ!!!」
テンが珍しく語気を強め、ムキになって否定するので、みんなで宥める羽目になった。
「さて、と……」
かなりくすぐったい装置のスリスリを、セージが止めた。測定が終了したようだ。
「ピピンさんのエネルギー、思ってたより強いですよ。瘴気の中で生きられる強さを10単位と設定してるんですが、ピピンさんは平均で40から50単位あります」
「――ということは?」
「はい。ピピンさんはこのままで、魔王領まで行けますよ」
そう言ってセージは、ニッと笑った。
「ちなみに、テンのエネルギーって何単位になるんだい?」
「姉さんは測定不能ですよ――1000以上はこの装置、測れないんです」
「次はピピンさんの瘴気吹き飛ばし拳、その強さを測ってみたいですね。さっき受けた感じだと、おそらく測定不能になるでしょうが――」
「その前に、服を着させてもらえないかな」
ぷらんぷらんさせたまま、ピピンが応える。
「ちょっと、待って下さい」
ふたりの遣り取りに口を挟んだのは、ヤンだった。
いつになく真剣な表情をしている。
「魔王領に行くには、電荷エネルギーの放出が――不可欠なんですね?」
ヤンの瞳を見つめながら、ゆっくりとセージが肯く。
「その通りです。魔王領は瘴気渦巻く別世界、普通の人間が入ったら全身がただれ、やがて骨まで分解されてしまうでしょう」
ヤンが眉を寄せ、泣きそうな顔になった。
「と、いうことは、僕は……」
セージが眼を伏せ、再び肯いた。
「ヤンの電荷エネルギーは、ゼロ。ヤンは魔王領に行けません……旅はここで、終わりです」
「そん、な……」
ヤンの眉がいっそう下がり、頬を涙がツッ、と流れた。
「お師さん、何とかなりませんか? 今すぐ電荷エネルギーを出せる技を、教えてくださいっ」
「ちょっと待ってろ」
ピピンはちょうど、サルマタに脚を通している最中だった。
サルマタを穿き、腹をポンポン、と叩きながら、ピピンは真剣に考える。
「俺の場合は鍛錬を積んだ結果、偶然そうなったわけだから、なあ……でも今、お前がやれる事、やるべき事は、ひとつだ」
「分かるか? ヤン」
そう言ってヤンを見上げるピピン。
「お師さん……」
「ああ」
サルマタいっちょのピピンは、親指を立てながらニッと笑った。
「鍛える、ことだ」
「いつも言ってる事だ。無私無欲のまま、すべての欲望を、負の感情を捨て去り、明鏡止水の境地で突きを繰り返せ。強くなりたいとか、女の子にモテたいとか、そういう気持ちはその瞬間だけでもいいから、すべてを滅するんだ」
そう言うとピピンは、セージの方を見遣った。
「セージ、旅立ちの日は、いつになるかな?」
「旅の支度は三日もあれば、充分ですよ」
「そういう事だ――ヤン、結果を怖れるな。この三日間、一心不乱に己を鍛えろ」
「はい。今回の場合は、お師さんに付いて行きたい、という一念ばかりですが、それにしても……」
「お師さんは強くなりたいとか、モテたいとか、そんな気持ちを持ったことは、ないんですか?」
「ああ、ないな」
ピピンは屈託なく笑った。
「強さとか女性とかとは、生まれてこの方、まったく縁が無かったからなっ」




