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2 魔獣対策本部、出動!


 バサバサッと翼の音が轟いたのは、ピピンとヤン師弟が朝稽古を終えて闘技場を後にしようか、というところだった。

 ピピンの古くからの相棒、九官鳥のキュウちゃん。

 王都フン戦役の功績により、褒美を受け取らないピピンに代わり、キュウ=ド・シーという王家の姓を貰っていた。


「マジュー、マジュー!」

 キュウちゃんはクチバシに咥えていた矢文をピピンの足元にポトリと落とし、何度もけたたましく鳴いた。

 王都フンへの、魔獣襲来の急報である。


『はっ。キュウちゃん、ありがとうございます』

 ピピンとヤンは声を揃え、キュウちゃんに向かって敬礼する。

 彼らの敬礼は、こめかみに当てた右の掌を相手に向け、左腕を軽く外に払った格好で、どことなくユーモラスで可愛らしい。

「いいって、ことヨッ」

 キュウちゃんは彼らの敬礼に、甲高く鳴いて応え、ピピンの頭の上に停まり、翼を休めた。


「どれどれ……」

 矢を手に取ってピピンが内容確認をする。

 矢に塗装された色と線の本数で、魔獣の大まかな位置と手強さ、数が分かるようになっているのだ。


「ええと、8番見張り小屋からだな。魔獣レベルは『つよポン』で、数は――」

 矢文を見つめるピピンの顔が、少し曇る。

「どうしました? お師さん」

 魔獣の強さは『弱々(よわよわ)』『まあまあ』『強ポン』『激ヤバ』の四段階に分類されるが、魔獣は普通一般人の手には負えないので、大抵は『強ポン』になる――ちなみに一年前、魔王が攻めてきた時は『激ヤバ』30本分だ。

 というわけで、魔獣の強さ自体は、まったく問題にはならない。


「母魔獣が一頭に、子ども二頭――子連れだとさ。完全な迷い魔獣だし、取り扱いも慎重にしてやりたい」

 ピピンの言葉に、ヤンが我が意を得たり、という風に肯く。

「ではいつも通り、我々だけで行きましょう。騎士団連れてって、間違って仔魔獣を殺したくはないですもんね」

「ああ」

 ピピンが頭上にキュウちゃんを乗っけたまま、ニカッと笑った。


「じゃあ早速、行こう」

「はいっ!」






「ピピンとヤン、魔獣対策本部、出動いたしますっ!!」

 闘技場に詰めてる面々に向かって、キュートな敬礼をしながらヤンが叫んだ。

「キュー、ちゃんも、行くよ」

 キュウちゃんの合いの手が入った。


「応援はいらないのかあっ?!」

「はいっ、今回は子連れですので、我々だけで対処しまーす」

 騎士団の申し出に、ヤンがはきはきと応える。


「そうか――分かった! 壁の修繕は俺たちに任せておけ!」

「はいっ、恐れ入りますっ」

「武運を祈る! 最弱の拳闘士」

「頼りにしてるぞ! 負け続けの英雄」

 武器を振り上げながらの勇ましい見送りだった。

「行って、来る、キュー、ちゃん、行って、来る」


「朝飯、食べ損ねましたねえ……」

「仕方ないさ。仕事が終わったら、出先でご馳走になろう」






 魔獣対策本部は、馬小屋に併設された掘っ立て小屋――というより、ほとんど馬小屋だった。

 拳闘士たる者、贅沢を言ってはいけないのだ。

「ピピン殿おはよう、待ってたぞよ。パイセン殿はスタンバイ出来てるぞよ」

 本部長が日焼けした顔から、欠けた歯をニッと覗かせる。


 現場までは馬のパイセンに乗って出動する。

 小さ過ぎて馬に乗れないピピンのために、大小の鞍が二台付けられている。

 ふたりを乗せても壊れない、スピードも落ちない、丈夫で大柄な馬だ。


「ブチョー、ありがとうございます……パイセンの機嫌が悪そうですが?」

 本部長の名前はヤク=ド・シー。

 姓からも分かるように王家の出身で、何を隠そう嘗ては先々代の国王、フン=ド・シー29世だった。

 ギックリ腰で退位してからは掘っ立て小屋に居着くようになり、大好きだった馬の世話をする傍ら、魔獣対策本部の部長としてピピンの上司になっている。

「いや――飼い葉はキチンと食べさせた、ぞよ?」


「ふんふん、なるほど……ブチョー、朝の散歩がまだだ、って言ってます」

 パイセンと何やらコミュニケートをしていたピピンが代弁する。

 部長とヤンが同時に、口をあんぐりと開けた。


 ヤンが愛想笑いでパイセンを宥める。

「あの、パイセン……非常事態なんですから、そこは折れて欲しいんですが……フンの街を出るまではトロットで散歩をして、そこからは全力疾走、という事でどうでしょうか?」

「ぶるるるるる」

 ピピンの通訳を経て、パイセンがたてがみを揺らす。

「それで我慢してやる、だってさ」


「早朝だからなあ、寝起きで飯食わされて、いきなり全力疾走させられる身にもなってみろ、だってさ。パイセンの言う事にも一理はあるよな」

 キュウちゃんを頭に乗っけたままヤンに抱きかかえられ、ピピンがパイセンの前の鞍に尻を落ち着ける。

 ヤンは分厚い革手袋を腰に下げ、大きな箒を背に括り付けた――南の国で自生している棕櫚しゅろの繊維で作られた箒で、いずれも魔獣撃退に必要な道具だ。


「では、行ってきます」

 ヤンがパイセンの後ろの鞍にひらりと飛び乗った。

 それと同時にパイセンが、ぶひひひーんと気合を入れつつ後ろ脚で立ち上がり、その後は脇目もふらず、街の外に向かってスッ飛んでいった。

 どこをどう見てもパイセン、やる気満々である。


「パイセン殿も、素直になればよいのに……扱いに困る馬ぞよ……」

 本部長は手をかざして眼を細めながら、ピピンたちの後ろ姿を見送った。


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