21 『瘴気吹き飛ばし拳』の新たな可能性について
セージの顔が、ようやく師弟の方を向く。セージの尻を見飽きていたピピンとヤンにとっては、好都合であった。
ちなみにまったくの空気となっている姉のテンだが、ベッドの上にうつ伏せになって、泳ぐ練習をしている。
大波が押し寄せたらしく、溺れて『助けてぇ』と言っているが、誰も見向きもしないので、また普通に泳ぎ始めた。
「瘴気吹き飛ばし拳の原理なんですが、僕ら――姉さんの放つ電荷エネルギーと、同質のモノでした。拳を直接受けてみて、分かったんです」
どうして分かったのかは、訊くだけ無駄なんだろう。
「これはかなり、特殊な電荷エネルギーなんです。本来は無電荷であるニュートリノや、結合状態になるまでは安定した物体である瘴気に、電荷を帯びさせるエネルギーですから。さらにピピンさんの場合、拳に込められた気合いがブーストを起こしています。これを仮に『気合い効果』と呼ぶ事にします」
「きっ、気合いね……気合いは重要だよねっ」
ピピンにも理解出来る単語がようやく出てきた。
「気合い効果は、拳が産み出した電荷のエネルギー波を、拳の到達地点から遠心状に等速度で拡散させ、その電荷エネルギーに触れた瘴気は分子結合を剥がされ、安定を失い分解される。分解された分子はやはり特殊な電荷を帯びているため、それが瘴気に当たると反応し、分解の連鎖が生じる――これがピピンさんの『瘴気吹き飛ばし拳』の秘密なんです」
「ふーーむ」
「お師さん、分かるんですか?」
「分かるわけないだろう――でも俺の拳て足し算じゃなくて、瘴気を掛け算で吹き飛ばしてんだな」
「うわっ」
「正解です」
すごく驚いた顔で、セージとヤンがピピンを見つめている。
「なんだよ――俺だってそんな馬鹿じゃないぞ? ただ、学が無いだけだ」
ガキの頃、師匠に教わった読み書きと、計算が役に立った。ピピンは少しだけ、胸を張る。
「興味深いと思ったのが、ですね――セージ、お師さんの拳エネルギーは、テンのそれと同質だ、って言ってましたよね?」
「ええ、そうです」
「そしたらお師さんも、テンみたく量子レベルの幸運が、身に付くんじゃないですか?」
「いや、残念ながら電荷エネルギーは必要条件ではあるんですが、姉さんの幸運はそれだけじゃ説明がつかないんです――でもピピンさん、きっとあなたは、幸運の一部は手に入れてますよ」
「えっ? ホントか?」
「お師さん、すごいじゃないですか」
「俺が、幸運、ねえ……」
ピピンは、自らの人生を思い返していた。
5歳で親元を離れ、拳法の師匠とふたり、野良犬のような生活を送ってきた。
来る日も来る日も、大きな荷物を背負い、働き、拳の修行に明け暮れた。
そうして得た二つ名が――『最弱の拳闘士』だった。
「お師さん? ――お師さん?」
「きっつい課題をクリアすると師匠がさ、トカゲの尻尾を燻製にしたヤツを、褒美にくれるんだよ……いつまでもチューチュー吸ったり、囓ったりしてさ、それがガキの頃のご馳走だったなあ……」
「お師さん、思い出話はそのくらいで」
いかんな、いつの間にか幸運の追究、どこかに行っちまっていた。
「ピピンさんの幸運指数ですが、明日実証と測定をしてみましょう。ピピンさんの放つ電荷エネルギーを可視化出来る施設が、村にあるんです」
セージの提案に瞠目する、ふたり。
テンはベッドの上で、まだ泳いでいる。
今や見事なフォームのバタフライだ――山間の村で、これを披露する機会が果たしてあるのだろうか。
「へえ」
「いったい、何処ですか?」
「発電所の小屋の中です」
『考えるな。感じろ』ww
そんな感じで、いいと思います汗




