19 セージ、ピピンの瘴気吹き飛ばし拳を体験する
「それよりさ、家なくなって、お前ら今晩からどうするつもりだよ?」
食後に、エトーが話を蒸し返した。
バブちゃんの放った瘴気のせいで、屋内の有機物は総て灰燼と化した。
金属製の無機物は残っているだろうが、完全に瘴気が消えてから探すべきだろう。
つまりテンとセージの姉弟は現時点で、家無しどころか、すってんてんの着た切り雀、正真正銘の一文無しだ。
「今晩はピピンさんたちと、客用のコテージに泊まりますよ」
涼しい顔で、セージが応える。
「で、ピピンさんはデーモンさんたちを助けに、魔王領に行くそうですから、僕と姉さんも一緒に行きます。後の事はサイに戻ってから考えます」
「そうか、気を付けて行くんだぞ」
「はい」
「はぁーい」
驚くほどあっさりした遣り取りの後に、四人はエトーらの家を辞去し、客用のコテージへ向かった。
客用のコテージにもLEDライトとやらは常備されていて、室内を煌々と照らした。
「これって、こんなに使いまくって大丈夫なんですか? 燃料切れとかライトが故障したりとか――」
「ご心配なく。ニュートリノは夜でも分量は変わりませんし、電気供給は充分です。ライトも原魔石をコアにしたのが奏効して、少なくとも数年間は持ちますね」
水回りはさすがに外だが、簡素な仕切り板を外せば潤沢な清水が蕩々と流れてくる。
すぐ歩いて行った処に湯気が立っていて、聞けば共同の温泉風呂だそうだ。
「まあ、何と言うか……」
「まるで夢の国、だね……」
王侯貴族のような、という言葉は、現在のド・シー王国には当て嵌まらない。
フン崩壊からの復興途上でもあり、元々階級意識がかなり乏しいせいもあって、王国貴族もほぼ同じモノを食べ、ほぼ同じ生活をしている。
快適そのもののコテージは、ふたり掛けのソファがふたつに簡易テーブル、ベッドふたつ。
「ま、みんなで一緒に寝れば、問題はないかあ」
「いや、このソファ、背もたれを倒せばベッドになるんですよ。ほら」
セージが実演してみせ、ピピンとヤンの口がまたもやあんぐりする。
「何とも、はや……」
「驚く事ばかり、ですねえ」
ピピンもやってみたが、背もたれの移動部分が軽くて、想像していたよりも操作が簡単だった。中が空洞の、軽合金のパイプで骨組みを作ってあるそうだ。
ひと息ついたところで、セージが話を切り出した。
「ピピンさん、お疲れのところ申し訳ないんですが――『瘴気吹き飛ばし拳』て今、打てますか?」
「ん? ああ、集中するだけの普通の正拳突きだから、全然出来るけど」
「ならばぜひっ、打ってみてくれませんか? 物理エネルギーが何故あんな簡単に、しかも100%に近い形で電荷エネルギーに変換され、あれほどの大規模な連鎖を惹起させるのか、どうしても知りたいんですっ」
お目々キラーン状態で、身を乗り出してまくし立てるセージだったが、相変わらず彼以外には意味不明な言葉の連鎖であった。
セージの熱意に押される形で瘴気吹き飛ばし拳を披露する事になった、ピピン。
「いいのか? セージに直接打っちゃって」
「はい、是非。直接体験して、間近で観察したいんです」
「それでは遠慮なく」
「いつでもどうぞ」
仁王立ちになったセージと向かい合わせに立ったピピンが正拳の構えを取り、気合を込める。
「はあっ――――」
「とりゃああーーーーーーーっ!!」
ピピンがセージに突きを放った瞬間、ノーダメージの筈なのに、セージの髪がサッと逆立ち、ふんわりと下りてきた。
「ほーーーーーっ」
セージが両肩をすっくと上げ、そして下ろし、長い吐息を吐く。
「見えた…………かな……」




